お題:模様替え

「掃除させろ」

 凄まじい剣幕で詰め寄ってくる彼女を前に、俺は平静を取り繕おうとする。

「あの、最近は忙しくてですね?」

「言い訳はいらん。掃除を、させろ」

「イエスマム……」

 彼女は常軌を逸した掃除好きであり、ことあるごとに俺の部屋を掃除しに来る。断れた試しはない。

「カップラーメンは食ったらさっさと片付けろ! 服も脱ぎ散らかすな! クローゼットの中まで掃除してやろうか!」

「後者に関しては勘弁してくれマジで!!」

 男の一人暮らしともなれば生活能力の有無が浮き彫りになる。隅々まで掃除されることになった日にはクローゼットの奥底に隠している諸々のブツが発掘される可能性大というわけだ。

「頼む、他はどんだけ掃除してもいいからクローゼットだけは勘弁してくれ……」

「……押し入るようなことをしているとはいえ、プライベートな場所ぐらいはわかっている。クローゼットは覗かない」

「助かった……」

「やましいものがあると白状しているようなものだがな。まあいい、そこ以外を大掃除だ。お前も手伝え!」

 不定期に訪れる彼女によって俺の部屋は一気に雰囲気が変わる。汚部屋の三歩手前といった具合の状態がモデルルームもかくやという清潔感溢れる部屋に変身するのだ。

「いつも魔法みたいに綺麗な仕上がりだよな。正直助かるわ」

「ふん。私が好きでやっているだけだ。……季節感が欲しいな」

 ぼそりと呟いた言葉は、いつもは聞かない言葉だった。

「季節感?」

「インテリアだ。お前は物を置かないからな。置物のひとつでもあればと思ったまでだ」

「ガンプラでも置くか?」

「本当にセンスがないなお前は。ディフューザーや観葉植物を選べ」

 そういったオサレアイテムにはまったく関わってこなかった俺に無茶なことを言ってくれる。

「そういうのわからねー……お前が選んでくれたらな」

「! ……し、仕方がないな。どうせいまから昼食を摂る予定だったんだ。ついでに買いに行くぞ」

「お、マジか。髭剃ってくるからちょっと待っててくれ」



「……よし。昼食に買い物……これは実質、デートだな。ふふっ」

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