お題:電話
大きい音は嫌いだ。
雷鳴とか、大型犬の吠える声とか、そんなものは概念ごとなくなれと何回願ったことか。
中学生になってもそんな調子なのだから、私は自分が情けなく思えて仕方ない。
親戚の集まりに来た時、みんな口々に「大きくなった」と言うけど、中身は風船が割れたのにビックリしておしっこ漏らしたあの頃と変わってないのだ。
「おねーちゃん」
過去の大失態を思い出して勝手に落ち込んでいると、いとこの少年が声をかけてきた。
「どうかした?」
「トイレどこー?」
「あー、はいはい。連れてったげる」
手を引いて廊下に出る。日本家屋の廊下というのはなぜ電気をつけていてもなんか薄暗く感じるのだろうか。
「この廊下を右に……」
曲がった瞬間、ジリリリンとけたたましくベルの音が響いた。
「ぴャッ!?」
黒電話の音に驚いて腰を抜かす。空白になった脳みそに、耳元で暴れる心拍音と鳴り続く黒電話だけがこだましている。
呆然として過ぎた何秒後かに、いとこが電話を手に取った。
「もしもしー。あ、おじちゃん! うんー、わかったー、おばちゃんに言うとくねー。ばいばーい」
ガチャンと受話器を置くと、いとこは振り返った。
「おねーちゃん、電話怖いん?」
「ち、ちがっ……でっかい音が怖いの」
「そっかー。なら、おれがでっかい音からおねーちゃん守るー」
私の手を取った小さな手と、純朴な笑顔。不思議なもので、それはいままで試した無数のインチキ療法のどれよりも即効で私の心を穏やかにさせてくれた。
「ありがとね。元気出た」
「へへー。……トイレー」
「あっ、ごめん!」
トイレは無事に間に合い、いとこを第二の私にせずに済んだ。
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