お題:カップ麺
「おいコラこの紐外せ!!」
「ジタバタしてると落ちますよ」
「なんでわれをカップ麺の重しに使う? われ付喪神ぞ!?」
湯気が昇り立つ蓋の上でのたうち回る小人を前に、俺はようやく現実を認識し始める。
「熱さを感じていない……ひとまず、付喪神という話は信じましょう。実体はありますし、幻覚ではないと信じたいのでね」
「おぉ、わかってくれたか! じゃあ早くわれを降ろせ!」
「その前に質問を。あなた、何の付喪神なんですか」
付喪神。明確な定義は知らないが、少なくとも長期間を大切に使われた物品に宿る神仏妖怪の類だったはずだ。しかし、俺の持ち物には先祖から受け継いだような思い入れのある品もないし、霊験あらたかな物品を買った覚えもない。降って湧いた付喪神を前に懐疑も何もあったものじゃないが、とりあえず出処は知っておきたい。
「そりゃまあ、箸置きじゃ」
「箸置き? まあ使ってますけど……じゃあ他のものにも宿ってるんですかね」
「他のはまだまだ遠い未来じゃの。われが宿ったのは、他の品々よりもっと頻繁に使われておったからじゃ」
「……ああ、なるほど」
合点がいった。俺はカップ麺の蓋のストッパーとして箸置きを使っていたのだ。
「けど、たったそれだけですか?」
「付喪神は感謝の心で生まれる。お前がわれに感謝しておったからわれが生まれたのじゃ」
「感謝……まあ、便利だなとは思ってましたけども。というか、それならいまの状態が仕事を全うしている姿なのでは?」
「せっかく付喪神となったのにこんな尊厳もくそもない姿でおるのが我慢ならん!!」
浜辺に打ちあがった小魚のようにぴちぴち跳ね出したとき、タイマーが鳴る。
「わぷぁ!? お、おい! つまむな! 降ろすなら言え!」
「ああすみません。ちょうどカップ麺ができたもので。食べます?」
「いらぬ!!」
熱々のカップラーメンを啜る。
「美味い。あなたのおかげですね」
「……ふん。もっと感謝せい」
「次もお願いしますね」
「ふーん! まあ、どうしてもと言うならやってやらんでもないの!」
役立ったり使われたりするのが道具の本分とは言うが、心配になるほどチョロい付喪神だ。
次から、カップ麺の上で誇らしげに仁王立ちする付喪神が見られるようになったのだった。
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