お題:通勤
「おはようございまーす」
「おあようございあす……」
いつも同じ電車で会うサラリーマンは、若いわりにくたびれていて、いつも疲れ切っていた。私が勤める会社の取引先に勤務しているので顔見知りになったのだが、あまりにも毎朝調子が悪そうなので心配のあまり話しかけるようになってしまった。
「今日も眠そうですねー。クマが酷いですよ?」
「辛気臭い顔ですみません……もう、エナドリが効かなくて……」
「そんなにブラックなんですか?」
「いや……上司がクソみたいに仕事抱えて、納期短いのを丸投げしてくるんで……クソが、あのハゲタコ……すみません、口汚くて……」
しばらく会ってると、大体の追い込まれ具合が表情でわかるようになってきた。しんどくなると眉間の皺がキツくなり、目が細くなるのだ。眉間に山脈ができ、瘴気でも出てそうなほど目つきが悪いところを見るに、だいぶ参っているらしい。
「大丈夫です? 労基呼びます?」
「もうチクってます……でも受けた仕事はやらないといけないんで、今週は何とか乗り切らないと……」
「なるほどー……自分へのご褒美とか用意してると集中できますよ。今日の晩御飯はいいの食べるとか!」
「……いま、食いたいものも買いたいものもなんもないです」
疲れ切っていると趣味への情熱も楽しいモノも忘れてしまうのはなんとなくわかる。
「じゃあこうしましょう! 今日、定時に帰れたら二人でラーメン!」
「はあ……」
「こってり豚骨にチャーシューましまし! チャーシュー餃子もドン! どうです?」
「……外でラーメン食うの、何ヶ月ぶりだろ」
「きっとすさまじく美味しいですよ! 楽しみですねー」
「……がんばってみます」
ふらふらと会社へ向かう背中へ私は手を振る。彼の誠実さはよく知ってる。ああ見えて、無理なときは無理としっかり言う人なのだ。
「あ、おざます先輩。なんか機嫌いいっすね」
「でしょ? 今日ラーメン食べるんだー」
「いいっすねーラーメン。誰と行くんです?」
「んー……目が離せない人かな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます