お題:お姫様
早朝のバルコニー、シーツを結び合わせた縄が風に揺れる。それを伝い、するすると庭に降り立った少女は、ローブのフードを深く被って顔を隠した。
「よしよし、今日こそ脱走……」
「おはようございます、姫」
「…………」
苦虫を噛み潰したような顔で振り向くと、背後にはいつの間にか執事が立っていた。
「今朝もお元気そうで何よりです」
「お前なぁ……なんで毎回バレるんだよ」
「執事ですので」
自分と同年代でありながら、時に人間味すら感じさせないほど瀟洒で洗練された立ち振る舞いをする少年を前に、彼の主人である少女は歯噛みした。
「執事を便利な言葉にするな。お前と比べられる他ンとこの執事が可哀想になる」
「比べる必要など御座いません。私は姫の執事なのですから」
「あっそー」
ぷいと顔を逸らし、少女がローブを脱ぎ捨てる。
「お前もあたしの執事だったら、ちょっとぐらい見逃せっての」
「では、そう命令ください。不肖ながら私、手練手管を駆使して姫をいかなる場所へも逃がすと約束いたします」
「……冗談だバカ」
不機嫌そうに鼻を鳴らし、少女はベッと舌を見せた。
「いつか出し抜いてやるからな」
「はい。その日を楽しみにしております」
その言葉には、信頼という芯が通っていた。
いつの日か、本当に少女が自分よりも強い存在になってくれるという確信。それを感じ取れるからこそ、少女は明日も脱走を企てる。
「行くぞ。今日も散歩だ」
「かしこまりました」
逃げ出す姫と阻止する執事。
毎朝のように繰り返される静かな攻防は、二人だけの真剣勝負であり、心が通い合う逢瀬なのだ。
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