お題:仕掛け

「はい助手、誕生日おめでとう!」

「まだ半年先ですけど?」

「まーまーマーマレード。そんなことは知っているけど科学部部長であるわたしからのプレゼンツを受け取りなさい!」

 相変わらず寝癖が跳ねた部長から、絵に描いたようなプレゼント箱をもらった。この人からの贈り物は大体がロクなもんじゃない。コーラに見せかけた炭酸入り醤油とか、時間になるとマーモットの叫び声がするタイマーとか。

 正直突き返したいが、部長がニヤニヤしながら仕込んだであろうイタズラを引っかかりもせずに無視するのは気が引ける。部長の落ち込む姿は小学生をいじめたような気分になるので心臓に悪いのだ。

「ワーアリガトウゴザイマスー」

「ここで開けてもいいよ? むしろそうしな? ん??」

 入念なフリをいただいたので、包装を開く。

「オルゴール?」

「よくわかったね! さすが助手だ」

 マホガニーの箱に蔦のような模様がシックに施されたオルゴール。学生が渡すには上等すぎる一品だ。普通ならば。

「開けますね」

「いいとも」

 恐る恐る、箱を開く。カチカチと歯車が回って、『小さな世界』の音階に合わせてガラスのように澄んだ音符が踊り始めた。

「何も……ない?」

「警戒し過ぎだろ助手ぅー」

「え、どうしたんですか部長。センス枯れたんですか?」

「歯が虹色になる薬飲ませてやろうか」

「すいません」

 本当にプレゼントだったのだろうか。だとしたら、なぜ今日なのかという疑問が残るが。

「……本当に今日が何の日かわからないのか?」

「え……はい」

「ふーん、そうかよふーん」

 むくれっ面の部長がべーっと下を出した瞬間、オルゴールの中から勢いよくぬいぐるみが飛び出した。

「うわっ!?」

「ばーかばーか!」

 部長はケラケラと笑いながら部室から逃げ出した。まんまとやられたってわけだ。

「くっそー……ん?」

 みょいんみょいんとバネで揺れるぬいぐるみをよく見ると、手紙のようなものを持っていた。

 小さく小さく折り畳まれたそれを開くと、短い文章があった。

『助手 入部してくれてありがと』

「あっ……もしかして今日って、俺が入部した日……」

「やっとわかったのか。この鈍感助手」

 ドアの隙間からこちらを覗き込む部長が、ふんと鼻を鳴らす。

「まあ、わたしにとってはどーでもいいことだったんだけどね。感謝をたまに伝えないと、きみも頑張り甲斐がないかと思ってね」

「……ふふ。ありがとうございます、部長」

 唇を尖らせて、珍しく言い訳じみたことを口にする部長が、とてもいじらしく見えた。

「わざわざ覚えてくれていたんですね」

「別に覚えてないよ。昨日、そう昨日そういえばーって思ったんだから」

 こんな手のかかる仕掛け、一日そこらでどうこうできるものじゃないって一目でわかるのに、部長はごまかそうとしていた。

「そうだ、一緒にご飯食べませんか。僕が払いますよ」

「オルゴールはわたしの気持ちだ。お礼なんていらないな」

「違いますよ。今日は『部長がぼくを科学部に入れてくれた日』ですから」

「……やりおるじゃないか助手ぅ」

 悔しそうに歯噛みしながらも頬のゆるみが抑えられていない部長は、これまで見てきた中で一番かわいかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る