お題:自傷

 時計が正午を数える少し前。

 大学構内の中庭のベンチで横になっている人がいる。私がよく知る人物だ。

 彼は体質なのか、どんな状況でも必ず昼寝をする。そして、確実に自宅もかくやという熟睡に入る。

 こうなってしまうとテコでも起きなくなるのが困りどころだ。揺すっても、耳元で叫んでも、午後の講義が控えていても起きない。

 そのため、本人が対処法を用意している。その起床方法の珍しさから、彼は周囲にこう呼ばれている。

 スタンガン先輩と。

「づッ……あぁ、おはよ」

 太ももへの電撃も慣れたもので、先輩はすっくと体を起こす。

「先輩、いつか死にますよホントに」

「大丈夫。俺がスタンガンで起こせって言いましたって遺書残してるから」

「洒落になんねぇんすわ」

 毎度毎度、おっかなびっくりスタンガンのスイッチを押す私の身にもなってほしい。日本で売られてる商品だからって、暴漢撃退用の電流が体にいいわけないんだから。

「しょうがないだろ? 俺は自分から寝るか限界が来て気絶するかの二択だし、生半可な刺激じゃ起きられない。こんな体で人生過ごすんだから、多少の無理はな」

「それ、先輩が背負うべき負担じゃないですよ」

「寝ないとダメなんですなんて相談、まともに取り合ってくれないだろ」

 たしかに言葉だけならナメてるように聞こえるが、困っている実例があるのだ。これを取り合わずして何に対応するのか。

「先輩、スタンガンでいいんですか? これから毎日なんですよ?」

「そりゃまあ嫌だけど、慣れるだろ。いや慣れたら駄目なのか」

「……じゃあ先輩の目覚まし、私に任せてもらってもいいすか」

「お前に?」

 不思議そうな顔は、私がどうやってスタンガン以上の威力を放つのか思考しているように見えた。

「方法は痛さとかだけじゃないはずです。私が先輩の目覚まし方法を探してやりますよ」

「ふーん。……じゃ任せた」

「軽っ」

「まあ、後輩にここまで心配されるとな。ただし、楽に行くと思うなよ。俺だって試行錯誤はしてたんだからな」

「望むところです」

 がんばれ私。すべては先輩の体と単位と、私の未来を守るため。

 スタンガンによる過失致傷なんてまっぴらだ!

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