お題:視界
昔から意味もなく緊張しやすい人間だった。
自己紹介どころか授業中に当てられた時さえ心臓がバクバクと早鐘を打ちだす始末だ。
「そりゃあれだ。視界が狭いんだわ」
「視界?」
軽い調子で話す友達に、おうむ返しで聞き返した。
「目は良い方だと思うけど……」
「視力じゃなくて価値観だよ。価値観が狭いから、見えるものが少ない」
たしかに学生身分だし、見えてるものなんて少ないのはわかる。
「どうしたらいいの?」
「どうするもこうするもないな。いまから言うことを受け入れるだけでいい。『周りの人は自分のことなんてなんとも思ってない』ってな」
「…………」
「そらムッとした。自意識過剰は胃に悪いぞ」
だって、人前で喋るんだ。失敗したらコケにされる。噛んだり、何かしくじったら、みんなにバカにされる。
「ふさぎ込んでる方がダメだと思うぞ。どうせお前が何したかなんてクラスメイトのほとんどが忘れるんだ。そう思った方が気楽だろ?」
「忘れないと思うけど……」
「それが自意識過剰だ。逆にお前は周りの人間の一挙手一投足、全部覚えてんのか?」
「あ…………」
「同じって話。視界広げてみろよ。周りはそんなに注目してないぞ」
教室の中が、開けた気がした。電気はいつもついていたのに、暗がりに灯りが差した気がした。
「気楽になれよ。息吸ってりゃ視界は広くなるんだから」
「……学生って単純な頭なんだね」
「単純な方が生きやすいんだぞ」
「かもね」
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