お題:会話

 どんなコミュ症でも会話はできる。そう思っていた時期が私にもありました。

「えーっと……よろしく?」

「…………」

 学園祭の買い出しでペアになった男子は、こくこくと頷くばかりで声をまったく出さない。

 思い返すと、同じクラスだというのにこの男子の声を聞いたことがない。孤立しているわけではないし、おそらくドが付く人見知りと見た。

「じゃあ行こうか」

「…………」

 しずしずとうつむき気味についてくる姿は某顔無しを彷彿とさせる。呼吸しているのかと疑いたくなるほど静かで、不気味ですらある。

 さっさと買い物を終わらせたい一心で百均に入り、頼まれたものを買い物かごに放り込む。無口な男子もかごを持ってくれたりと協力的だった。

「あ、メモ忘れた……まあいいや。たぶんこんなもんでしょ」

 大体の見切りをつけてレジへ向かおうとした時だ。

『まだあります』

「わひぃ!?」

 急に聞こえてきた機械音声に驚いて振り向くと、スマホを手にした男子がぼのぼの的な汗を飛ばして困り顔をしていた。

「あ、あー、グーグル翻訳先生使ったの? そこまでしないと喋れないって……」

『ごめんなさい』

「謝られても困るけど……というか、普段はどうやって会話してんのよ」

『大体はメッセージで』

 イントネーションおかしめな声と会話するのもなんか嫌なので、私はさっさとメッセージアプリのQRコードを出した。

「ほら、アカ交換して。そっちのが楽だし」

「…………」

 慌てた様子で彼はコードを読み取り、さっそくメッセージを送って来た。

『(・∀・)』

「わかりづらッ」

『ごめんなさい』

「あああごめんごめんごめん!」

 ズズーンと落ちこんでしまったので、大慌てでフォローを入れる。

「挨拶代わりのギャグみたいな感じなの?」

『文字は感情が伝わりづらいから、顔文字を多用しています』

「なるほど、まあそっちのがいいか。で、まだ買う物あったっけ?」

『マドラーと紙コップです。あと、ガムテじゃなくて養生テープです』

「そういやそんなこと言ってた気も……ありがと」

『(*'▽')』

「かわいいかよ」

 本物の顔も嬉しそうだった。本当に言葉が出ないだけで、感情は意外と豊からしい。

「よーっし。無事に終わったね。じゃあ戻って……」

 と、その時メッセージが届く。学校に残ってる設営班からだ。

「なになに? 追加でコレ買ってきて……は? ペンキと強めの接着剤と角材!? ホームセンター行かなきゃダメじゃんメンドくさッ!」

『( ^^) _旦~~』

「まあお茶でもじゃないんだよ!」

『なごむかと思って……』

「いちいち発想が小動物的っ! 気ぃ使わせてごめんね!」

 正直パシらされてるのは腹立つけど、うだうだ言っても仕方ない。こういう時はプラス思考だ。例えば、そう。

「話しながら行こっか」

『(^^♪』

「重たいの、持ってよね」

『( ゚Д゚)』

「ぷふっ、意外と笑いのセンスあるじゃん」

『ありがとうございます』

 ゆっくり歩こう。ちょっと新鮮な会話を楽しみながら。

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