お題:服

「えっと……あ、いた。おはよう!」

 待ち合わせの場所で一際目立つオシャレな人。それが私の同級生だ。

 クラスのみんなは彼の私服を「V系かぶれ」と馬鹿にするけど、何と言われても好きな服装を貫き通す彼が、私にはカッコよく見えた。

 ヴィジュアル系のファッションに身を包みながらも悪目立ちせず、背伸びしている感じもしない。すらりと伸びた背すじと細い体のラインは、平均値であるはずの背丈をさらに高く錯覚させた。

 まさに服を着こなしている彼は、私を見るやいなや眉一つ動かさずに言った。

「色が雑多。持たせたい印象がわからない。靴が弱い」

「ひえええ……」

「服を審査してほしいと言い出したのはそっちだろう」

 そう、私はオシャレが苦手だ。

 好きなブランドもあるし、雑誌なんかも買って参考にしている。なのに、周囲は口をそろえて私を「ダサい」と評価するのだ。

「どうか、私に服の選び方を教えてください……」

「別に俺は専門家じゃない。技術めいた話はできんぞ」

「了解です!」

 メモ帳を出して準備万端の私を前に、彼は手早く指摘する。

「まず色が多い。好きな色はどれだ?」

「ぜ、全部……」

「……まとまった印象を持たせたいなら、色は白黒プラス2、3色に抑えろ。選ぶ色も、色相を意識しろ」

「し、シキソー……キッコロもいたりする?」

「意味のわからんことを言うな」

 嘆息されながらも、次の質問をぶつける。

 ちゃんとイチオシの部分を決めること、靴もちゃんとこだわること、アクセサリーは過多にならないようにすること……言われてみれば当たり前のことを、私は何もできていなかったとわかり、かなり気持ちがへこんだ。

「さ、最後にいい?」

「ああ」

「どうすれば、そんなに似合う服を見つけられるのかな?」

 彼は質問の意図がわからないとばかりに首を傾げた。

「俺は好きな服を選んでいるだけだ。こういう類いの服はもっと端整な顔で高身長な奴の方が似合うし、どちらかというと俺は不適合だろう」

「私も、好きな服を着たいよ? でも、チビでスタイルもよくないし……みんなにバカにされるかも……」

「お前は好きな服を着てる自分が好きじゃないのか?」

 言葉が私のもやを一閃する。

「俺はこの服を着たい。着飾った自分が好きで、満足している。他人がどう言おうが、俺は俺だ」

「俺は俺……」

「そうだ。好きな服を着て、あとは堂々と前を向いて歩けばいい」

 自分は自分。そんなありきたりな言葉、いままで何回聞いても卑屈に捉えてばかりだった。

 でも、この人は本当にそう思っている。だから、カッコいいんだ。だから、彼の言葉から逃げられないんだ。

「……話、ありがとう! その、よかったらだけど……一緒に服を選んでくれませんでしょうか?」

「女性のファッションは知らん。俺の主観になるぞ」

「いいよ!」

 私も、好きな服を着たい。その服を着こなせる自分でいたい。

 ちゃんと前向いて歩けるような女の子に……あなたみたいにカッコいい人になりたい。 

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