お題:スーパー
仕送りで生活している一人暮らし大学生にとって、半額シールの弁当は何よりも優先される代物だ。
最寄りのスーパーでバイトしている友人からシールを貼る時間を聞き出し、その時間に合わせて買い物へ赴く。鵜の目鷹の目で売り場に張り付いて狙うは、もちろん男子の味方、スタミナ弁当。
(おばちゃん来た……――)
「「とったァッッ!!」」
同じ弁当をほぼ同時に掴んだ相手をキッと睨みつける。宿敵、妖怪肉ばっか食ってる女の登場だ。
「よぉちょっと見ないウチに肌荒れたか? 野菜食った方がいいんじゃねぇの?」
「そっちこそ贅肉ついてんじゃない。味濃い肉にばっか食わずにちょっとはバランス考えなさいよ単細胞」
「おーおー女子だから気ぃ使って言わなかったけど言ってやるよ。太ったか肉女」
「あたしは運動で燃やすからいいんだよヒョロガリ男が」
「俺は細マッチョなんだよ間違えんな」
「元からある筋肉が浮き出てるだけよこの青びょうたん」
公共の場とは思えないほどバチり散らかす。周囲も「またか」といった雰囲気で、これもある種の日常風景となりつつある。
「そもそも俺の方が先に手ぇ伸ばしたんだよ」
「あたしの方が先に触った」
「俺の方が先に目ぇつけてた」
「あたしは昨日からスタ弁食いたかったんだよ」
「「ああン!?」」
デコを突き合わせて睨み合った。野生動物がそうであるように、目を逸らした方が負け。お互いに相手をフッ飛ばさん勢いで踏ん張っていると――
「あ、スタ弁あるじゃんもーらい」
「「は」」
横から掻っ攫われた。
「ま、またかよ……」
「クソッ、アホに付き合うんじゃなかった……」
メシがなければ喧嘩にもならない。俺たちは肩を落とし、ため息をつく。
「ちッ。鶏ムネでも買うか……」
「あ? あたしの思考読んだか?」
「「………………」」
俺たちは同時に精肉コーナーへと走った。
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