お題:夜

「いってきまーす」

 18歳の大晦日。私は初めて、真夜中に外出した。

 空っ風が吹いて、思わずコートの中へ体を縮ませる。普段よりも厚着なのに寒さを強く感じるのは、宵空のせいだろうか。

 マフラーで耳と鼻先を覆いながら、道路沿いを歩く。

 街灯でオレンジ色に染まったがらんどうの道路を、中途半端な三日月がぼんやり照らす。いつもは車のエンジン音が尽きない道が、いまだけは静寂に包まれている。世界に自分しかいないような気がして、征服感と同時に寂寥がじんわりと胸を満たした。

 振り返る。道路のはるか向こう側まで、何もいない。

 前を見る。はるか先まで、誰もいない。

 私は勇気を出して、チョイと道路へ足を踏み入れた。

「…………お、おおー……」

 登山に成功したような達成感があった。

 いままで、いい子いい子で生きてきた。信号無視をしたこともないし、校則違反もしたことがない。

 品行方正な生き方を後悔してはいない。この生き方だから私は良縁に恵まれてきたと思っている。

 それはそれとして、悪い子に興味がないわけではないのだ。

 だから、これはちょっとした犯行。誰もいない道路の真ん中に立ってバンザイしてみたりするのが、大きな夢だったのだ。

 夢見心地な閑けさのなか、寒さで真っ赤になった耳すら愛おしい。

 遠くで人の声が聴こえる。提灯の灯りが見える。

 白線の上を歩いて、神社へ。

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