お題:携帯電話

 スマホを買った。

 機械音痴なので忌避していたが、高校生になった記念で両親が買ってくれた。最新型より数世代前の安価なものだが、ゲームも写真加工もしないわたしには充分な代物だ。

「え、お姉ちゃんがスマホを!?」

 唖然としているのは、従妹の女の子。わたしは釈然としないながらも頷く。

「そっかー、化石みたいなガラケー使ってたあのお姉ちゃんがかー」

「……わたしだって、スマホを使える」

「SNSとかしてるの?」

「…………」

「してないんだね」

「ち、違う。したくないだけ」

 個人情報や不用意な発言の危険性を説こうとしたが、従妹の「わかんないから怖いんだよね?」という鋭い指摘でにべもなく黙ることになった。

「まあ、SNSは別にやんなくてもいいけど……メッセージ系のアプリは使えそう?」

「め、メールじゃダメなの?」

「友達間でメールは使わないかなーって」

 パカパカの携帯電話で頑張って培った技術を否定されて絶望していると、従妹が慰め混じりに提案してきた。

「じゃあ、まずは私とメッセ飛ばし合おうよ。練習台になるよ!」


 その晩、わたしは恐る恐る従妹に教えてもらったメッセージアプリを開いた。

「と、登録? ゆーざーねーむって本名でいいの? え、電話番号も入れるの?」

 四苦八苦しながらなんとか登録を終わらせ、教えてもらった番号で人を検索する。

「これかな……えっと、こ・ん・ば・ん・は……」

 数秒もせずに既読マークがつく。

『固い! これはお姉ちゃんに違いない!』

『あいさつはきほん』

『お姉ちゃん、漢字変換しないの?』

『……もしかして、一文字ずつ打ってる?』

『だめなの』

『まとめて打ち込むと漢字に変換できるよ!』

 こんな調子でのろのろとした会話を続けた。不思議と、漠然とした楽しさがある。気付けば日を跨ぎそうになっていた。

『わ、もうこんな時間!』

『私もう寝るね!』

『おやす!』

『おやすみなさい』

 メールとは違う、テンポが速い会話。まだ入力は遅いけど、悪くない。

『楽しかった。ありがとう』

『こちらこそ!』

 

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