お題:チョコレート
「おあ゛よー……」
我ながら女子に非ずと思う酷いダミ声で、私は通学路で会った友人に挨拶をした。彼はパックのレモンティーを吸いながら、軽く手を振る。
「おは。どうせチョコ周回してたんだろ」
「うん……」
チョコ周回というのは私がやっているソシャゲの恒例行事だ。
バレンタイン時期になるとログボでチョコが配られ、それをキャラに渡すことで会話イベントが見られる。それも毎年、全キャラクターに新規イベントが追加されるため、推しがどれだけ不人気でも絶対に救われるという神イベなのだ。
「で、今年も?」
「無論全キャラよ……推しが多いと
「同じ漢字でここまで矛盾するのも珍しい」
このチョコをログボ以外で集める方法はクエスト周回しかない。オートやスキップがない上にキャラ数は年々増加するため、私は地獄のような周回と天国のようなイベントに救われてを繰り返している。
「いやぁ、この前の配布キャラもカワイイが天元突破しててさぁ……うづづ、頭いたい……」
「無理しすぎな。どうせ誰かが動画上げるし、それ見ろよ」
「なんかそれは違う」
合理性だけを取ると彼の言う通りなのだが、それは「魚釣り行かなくてもスーパーで買えばいいじゃん」と同じ言い分なのだ。
たしかに周回は不便でイラつく時間泥棒なのだが、その過程を含めた上で回収するから会話イベントの推したちが心に焼き付くのだ。
「いわば愛だよね。愛」
「愛が多すぎるとロクな目に合わないのは王道展開ですが?」
「推しに刺されるなら本望ですらある」
深夜テンションを若干引き摺って浮足立っている状態なので、口から妄動がまろび出てくる。
友人はそんな限界オタクに呆れた様子だった。
「そうかい。じゃあ、推し活応援でこれをやろう」
そう言って渡されたのは、赤いパッケの板チョコだった。
「おぉー、記念ログボだぁ。去年もくれたよね」
「糖分摂ってしっかり勉強もしろよ?」
「しゃーない。ログボに免じてがんばるとしよう。うまうま」
パキパキとチョコを頬張りながら、私は思い出したように訊く。
「そういえばきみは推しにチョコあげた?」
「いまさっき渡した」
「ほへー。誰々? 何人ほど?」
「教えね」
興味津々で詰めるが、彼は私のチャージングをひらりとかわす。
「むぅ。せめて渡した人数だけ言えぃ」
「俺、推しは一人に絞るタイプなんだ。今年も去年も、一人にしか渡してねぇよ」
「ほほう。じゃあ学校に着くまでに当ててみせようじゃあないか」
それから、私はしらみ潰しにキャラ名を挙げたが、ついぞ彼の推しを見つけることができなかった。知っている限りのキャラクターを挙げたつもりだったが、見落としがあるのだろう。
私は校門前で板チョコのカケラを口に放り込み、自身の未熟さとともに噛み締めたのだった。
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