お題:プラネタリウム

「同志よ。私は天体観測がしたい」

「……今度は何のアニメに影響されたの」

 ノックもせず部屋に入るなり俺のベッドを占領した同級生を前に、呆れた調子でヘッドホンを外しながら応えた。ある時に面白いアニメがないかと言ってきたから布教して以来、こいつは俺のことを同志と呼ぶようになった。おそらく、こいつの中ではダル絡みできる気楽な相手ぐらいの認識だろうけども。

「アニメじゃない。スターウォーズだ」

「宇宙系を見て天体観測したいってまた独特な……」

「だって見たいんだからしょうがないではないか。さっさと用意したまえ」

「自由な……」

 こうして無茶振りしてくるのも慣れたものだ。前は蝦夷地で黄金を探すアニメを見て「クマと戦いたい」とか言い出したからプニキを勧めた結果、俺のパソコンがカチ割られそうになった。

「望遠鏡もないし、プラネタリウムかなー……お、あった。隣町だ」

「む、遠いな……まあいい。いざ隣町」

「お金あるの?」

 その質問に対して、彼女は宇宙を感じ取った猫のような顔をした。

「え、お金かかるの? 星の模造品見るだけで?」

「そりゃまあ、施設だから」

「……いくらかな」

「大人2000円」

「はぁー、許せんぞ資本主義」

「とばっちりで草」

 本当に資本主義関係ないしね。まあ、プラネタリウムに2000円というのは少し気が引けるのもわかる。いろいろと趣向を凝らしているとは聞くけど、なかなか足を運びにくい場所ではあるだろう。

「諦めて家の窓から星空眺めたら?」

「断る。浪漫がないじゃないか」

「じゃあ山奥でキャンプでもしなよ。星空見放題だよ?」

「きみは私がソロキャンできるほどの体力に恵まれていると思うのかね」

「めんどくさいなぁもう」

 軽く関連ページを漁る。すると、丁度良さげなものを見つけた。

「じゃあ、段ボールとアルミシート持ってきて」

「む、貴様。同志をあごで使うというのかね」

「では俺に無理難題吹っ掛けるのをやめてくれるのかな同志よ」

「謹んで最高級の段ボールとアルミを持ってこようじゃあないか」

 あの野郎、俺に無理難題というダル絡みするのをそこまでやめたくないのかね。

 俺は用意されたアルミシートを段ボールに重ねて、プスプスとコンパスでテキトーな穴を開けていく。

「はやふひたまえよどうふぃ」

「何食ってんの」

「レンコンの煮物だ。ご母堂の味がする」

「人んちの煮物食えるんならキャンプできるぐらいの図太さはあるだろうに」

「私は可能な限り自分で動きたくないのだよ。だからきみがわたひのかわりにむぐむぐ」

「食べるなら喋らない。行儀が悪い」

「ごもっとも」

 そうこうしていると、アルミを被った穴だらけのダンボールが完成した。蓮コラが苦手だったら鳥肌が立つぐらいの出来栄えである。

「電気消して。あとカーテンも閉めて」

「暗闇とな。……いやんえっち」

「ライトはスマホでいいか」

「我が渾身のボケを無視するか貴様」

 そういうネタに触れてるとキリがない。

 ボカボカと背中を叩かれながらも段ボールにタオルを被せて、内にライトをセット。部屋を暗くしたら準備は完了だ。

「ふむ、さすがに何をするかはわかったぞ」

「その想像通りだよ。ほらっ」

 タオルを取り払った瞬間、僕の部屋に宇宙が広がる。無数の光点が黒い世界へ投影される姿は、宇宙の只中に放り出されたような感覚すら覚えさせる。

「ほあー……予想の数倍良いな、コレは」

「解説がないのが玉に瑕って感じかな。デネブもアルタイルもあったもんじゃないし」

「ふむ、ではアレをデネブとしよう」

 そう言って指差したのは、天井に映る少しだけ大きい光点。

「で、そっちはアルタイル。あっちは……デネブだ」

「ベガはいずこに」

「サイコクラッシャーされたんだろう」

「する側じゃないのかたまげたなぁ……」

 デネブが二つの大三角形。まあ、そんなゆるい世界観が丁度いいのかもしれない。

「オリオン座でも探してみようかな。そう都合よく見つからんだろうけど」

「星座がないなら新しく作ればいい。ここは私たちだけの宇宙だ」

 暗闇に少し目が慣れた。ところどころが光点に照らされた笑顔は、星座のようにも見えた。

「浪漫があるな、同志」

「かもね」

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