お題:ハロウィン

「トリックオアトリートや!」

「はいどうぞ」

 現代にしては珍しく、うちには近所の子が行事ごとに遊びに来る。ハロウィンも例にもれず、今年小学校高学年になった女の子が吸血鬼っぽい恰好をしてうちを尋ねた。板チョコを渡すとニコニコとご機嫌になるのを見ると、まだ子供だなと安心したような気分になる。いつまでこうやって懐いてくれるものか。

「今年はカッコいい感じなんやね」

「せや! 最近見た仮面ライダーがカッコよかったんやー。にーちゃんは見た?」

「それってだいぶ前のやない? いい趣味しとんね」

「あ、そや。にーちゃんは今日ヒマか?」

 ゲームをする、と言いかけたが、何かを期待して輝く瞳を前に俺は言葉を胃に押し込んだ。じゃあなアサクリ、また来週やるわ。

「何すんの」

「へっへっへ。これ!」

 と、背中のリュックをうちの玄関にドスンと降ろす。せしめたお菓子でも詰めてるのかと思っていたが、お菓子とはかけ離れた鈍重な音が鳴った。まるで秘密兵器でも出すかのように含み笑いでチャックを開けていく。

「え、カボチャ?」

「立派やろ! 友達からもらった!」

 嬉々として見せてきたのは、ハロウィンシーズンによくランタンにされているオレンジのカボチャだった。

「へぇ、飾りになってるのはよう見るけど、そのままは初めて見たわ」

「こいつ使って、ジャックランタン作りたいんや!」

「ジャック・オー・ランタンか。工作してみるのは面白いな」

「ジャックランタン!」

「……ジャック・オー・ランタン」

 何度か応酬を繰り返したが、こういうので俺が勝てた試しは一度もない。だってオーって言いたいじゃん。オーって。

 何はともあれ、俺はリビングのテーブルに新聞紙を敷いて、何年か振りの工作をすることになった。

「もちろん中身くりぬいて作るやろ?」

「にーちゃんわかっとるな。ウチ、ちゃんと調べてきてんで!」

「やるじゃない」

 聞くに、カボチャの下を手が入るぐらいの大きさの円に切って、中身はスプーンで取り出すらしい。ということで包丁を持ってきて、早速。

「かッッッたい!」

「やらして!」

「ダメ。絶対にお前にやらしたらケガする」

 信じられんほど固い。真っ二つに割るなら力押しできるが、今回は円状に切る必要がある。しかも意外と土台が安定しないからヘタにゴリ押すとフッ飛びそうで怖い。

「ぬぉぉ……!」

「にーちゃん、ウチも手伝いたい!」

「じゃあ押し入れから彫刻刀探してきぃさ。後で顔作る時に要るんやろ……ふんぐぐぐ……!」

「わかったー!」

 ドタドタと走っていく。そして、すぐにドタドタと戻ってきた。

「にーちゃん、お煎餅食べていいー?」

「さっきあげたお菓子があるでしょうが! ええけど!」

「やたー!」

 こうして自由人な助手と共にカボチャと格闘すること1時間。作業量で言うと6:4ぐらいだが、疲弊量で言うと9:1ぐらいの割合で俺がヘトヘトなものの、ようやくよく見るジャック・オー・ランタンが完成した。

「おおおおカッコええなーにーちゃん!」

「腕疲れた……もー作らへんぞ俺は」

「ありがとな、にーちゃん! 肩揉んだるわ!」

 正直、非力な女の子では何もほぐれないが、やってくれる気持ちが何よりの特効薬だ。がんばって肩を叩いてくれている中、時計を見るともうすぐ夕方という時間だ。

「そや、友達のとこいかんでええの。コレ作ったのって友達に見せびらかすとかやないん?」

「え、ちゃうよ」

 あまりにもスパっと言うから座ったままコケそうになった。じゃあなんで、と聞く前に、にぱっと笑ってこう言った。

「にーちゃんと遊びたいから作ってん! 楽しかったー!」

「……そか。ならよかった」

 こういうかわいいことを言ってくれるのもあと数年かと思うと寂しいが、今日のことはずっと忘れないだろう。

「でも疲れたなー。にーちゃんトリックオアトリート!」

「え、来た時あげたやろ」

「もう食うたもん。おかわり!」

「いや、もう無い……」

 そう聴いた瞬間、今日一番の笑顔を見せた。

「ほなトリックや! いまからにーちゃんの部屋に爆竹をしかけまーす!」

「お前悪魔か!?」

 ジャック・オー・ランタンは魔除けという話をどっかで聞いた。が、どうやらうちのは効果がなかったらしい……

「いきまぁーす!」

「やめ、待てこらァ!」

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