お題:悪魔

「先輩、悪魔みたいなキャラが好きなの?」

「はい?」

 私がそう尋ねると、彼はゲーム画面から顔を離して疑問符を浮かべた。

「いや、そのゲームで使ってるキャラ。小悪魔っぽいから」

「あー……まあカワイイ悪魔に憑りつかれたい願望みたいなのは誰しもにあるんじゃね?」

「へぇー」

 軽い相槌を聞いて、私が興味をなくしたと思ったらしい先輩は、またゲームを再開した。

 ……私は不満を抱いている。

 私は高校一年生。そして先輩は高校二年生。別に幼馴染属性とかではなく、閑古鳥が鳴いている美術部の先輩後輩に過ぎない。まだ恋人でもなんでもない、ただの友達だ。

「…………」

 だとしても、この態度にはピキる。

 たしかに私は先輩の家に入り浸っている。気を許してからはウザ絡みもしょっちゅうしてる。決まり文句で「お構いなくー」と言って勝手に冷蔵庫も漁っている。

 だとしても、カワイイ後輩がいるのにRPGをやり出すのは許せない。

 我JKぞ? 華の女子高生ぞ? サッカー部に告られたこともあるんですよ?

「……そんなに魅力ないですか、私」

 やば、口に出た。

「え? いやいや、お前は美人の部類だろ」

 ………………っとにこういうことをサラっと言うのに、なんでこの人モテないんだろ。いや、皆まで言うな。こういうことをサラっと言うデリカシーの無さが原因か。

「じゃー私をかまってください」

「え、もう中ボス戦だからヤだ」

「私は中ボス以下ですか!?」

「かまってほしいなら彼氏見つけろって。俺みたいなのにそういうの求めてもつまらんだろ」

「うるさいですよササミ先輩」

「淡白だからなってやかましいわ」

 そういうところ好きですよ先輩。

 仕方がないと先輩の中ボス戦が終わるまでの間、私は作戦を練ることにした。残念でしたね先輩。私、つれない人ほどウザ絡みしたくなるタイプなので。

 とりあえず、さっきの先輩のセリフを思い返す。『カワイイ悪魔に憑りつかれたい願望』……実質、私が憑りついてるみたいなところはあるから、後は私が悪魔になればいいだけだ。

 とはいえ悪魔とは?

 イタズラはけっこうな頻度でしてる。もっと悪意強め? いやでもそれじゃ嫌がらせになるし……

 考えながら、私は先輩がよく飲んでいるココアの粉を取り出し、勝手に牛乳をあっため、ホッカホカのココアを淹れた。うむ美味しい。

「悪魔、アクマ……ハッ……尻尾をつければあるいは?」

「お前って考え込むとポンコツになるよな」

「誰がポンなんですかー。先輩をポン菓子にしますよ?」

「その猟奇発言が一番悪魔っぽいわ」

 そう言うと、先輩はテーブルに置かれたココアを取り、口をつけた。

「あっ」

「ん? ……あぁ、お前のかコレ。すまん、新しいの淹れる」

 先輩は事も無げに新しいコップを取りに行った。え、ウソ。私の間接キスへのリアクション終わり?

「ちょっっ、先輩、間接ですよ!? この、カワイイ後輩との!」

「うん。スマン」

「はぁー!? もっとこう、あるでしょ! 本当に思春期ですか!?」

 先輩は呆れたように、唇へ手をやる。

「意識してほしいのか?」

 ――――は。

「なんつって。互いに変な意識しなけりゃゴメンの一言で――……お前ほっぺた真っ赤だぞ。アイスココアにしとくか?」

「うぇ!? あっ、はい!」

 なんで私の方がやりこめられてんの?

 意趣返しってヤツ!? 先輩って何考えてんの!?

「~~~~ッ、悪魔めぇ……!」

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