お題:食堂

「ランチ2、ライス大盛り。あと食後にコーヒー出る」

「はいよ! ハンバーグ定食持ってって!」

「あいよ」

 繁盛する食堂を切り盛りしているのは、厨房に立つあたしと給仕を担当する幼馴染の大学生ふたり。阿吽の呼吸、なんておちょくられることもあるけど、事実上そうなのは間違いない。というかそのぐらいじゃないと二人でクソ忙しい休日の昼時を乗り越えることはできない。

 時計の針が二時を指した瞬間、指示するまでもなく『営業終了』の看板を店前に設置。さすが相棒。

 そうして残った客が全員帰ると、あたしは三角巾を、幼馴染はエプロンをほどいて座敷席に同時に倒れ込む。

「「つっっっかれたー……」」

「なーんでこういう時に限って客多いの……」

「あーったま痛ぇ……レジ打ち間違ってねぇよな俺……」

「わかるー不安すぎてヤバい」

 食器を洗う余力もないほど疲弊し、十分ほど寝転んだままブツクサと話していると、営業終了したはずのドアが開いた。

「お疲れさまー。ごめんね、途中で抜けちゃって」

 ママはそう言うと、すぐに厨房に入って山盛りの食器を洗い始めた。

「後で俺がやっときますよ。バイトですし……」

「バイトだから休みなさいな。ほら、まかないも食べてないんでしょ?」

「ぐぇー、そうだった。まかない作んなきゃ……くっそー、パパのぎっくり腰め」

 そう、大学生が休日返上でこんなことをしている理由は、あたしのパパが腰を痛めたことが発端だ。店を一時閉店するかという話し合いをして、実際に明日からは二週間ほど閉店する予定になっている。だが、客が多い昨日今日の土日だけは営業しておきたいということで厨房はパパとあたし、給仕はママと、ピンチヒッターの幼馴染を招集して完全な体勢で挑んだ。

 そして日曜日の正午。パパの腰が爆裂した。ママがパパを病院へ連れて行き、そこから営業終了までの二時間、なんとか大学生二人で繋がねばならないという状況になってしまったわけだ。

「疲れたでしょ? まかないはママに任せて、休んどきなさい」

「や。あたしがやる。ママはレジの確認とかすることあるでしょ?」

「そう?」

 あたしが重い腰をあげると、幼馴染ものそのそと起き上がる。

「あんたこそ休みなさいよ」

「さすがに女性働かせて寝てるのは良心が痛むんだわ。皿洗い変わります」

「あら優しい。きっとぎっくり腰にはならないわね」

「んー……実際やらかしてる以上、おやっさんを擁護できない」

 二人で苦笑しながら、あたしはもう一度厨房に立つ。

 営業が終わった後の雰囲気は好きだ。閑古鳥が鳴いてるのは勘弁だけど、繁盛したうるささと終わった後の静けさの対比でこの落ち着きが引き立ってるんだと思う。

「……手伝ってくれてありがと。助かった」

「いやいや。バイトとしては当然のことよ。でもまぁ、アレだわ。昨日っておやっさんを休ませるためにお前がまかない作ったじゃん?」

「え、うん。……なに。美味しくなかった?」

 邪推して不機嫌な声になってしまう。あたしだって料理得意な自負はあるけど、プロのパパに勝てるワケないじゃん。お店継ぐつもりもないから別に修行だってしてないし。

「違う違う。おやっさんのメシはすげー美味いけど、俺的には昔からお前の作った奴が好きなんだよなー。明日から食えないの、ちょっと残念」

「…………ふん。じゃあ、お弁当でも作ってあげるわよ」

「お、マジか。いやー、女の子に弁当作ってもらったなんてゼミの連中にバレたら殺されるなコレは」

 まったく。そういうことはもっと、こう、中学生ぐらいのときから言いなさいよ。まったく。

「何回だって作ってあげるわよ。あんたの好きな料理」

「ところで、毎日この子のご飯が食べられる方法があってね?」

「ママッ!」

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