第2話 仮

遠くのほうから二人の声がする。

「あいにくの雨ですね」

「まったくだな」

その声が近づいてくるが結月の耳には届かない。

「惣介様、他によるところはありませぬか」

「あぁ、体が冷える前に帰ろう」

「はい」

その時、男とぶつかって結月はしりもちをつく。

「痛っ」

「すまない、けがはなかったかい」

落ち着きのある声の持ち主が傘から身を乗り出した。

惣助の目の前には見慣れぬ服を着た女の子が

しりもちをつき潤んだ目でこちらをみている。

「お二人とも大丈夫ですか?」

すかさず手を差し出す。

握り返された手はとても冷たい。

「私は大丈夫だが」

立ち上がると見事に泥まみれの制服。

「ありがとうございます・・・すみません

私前見てなくて」

「けがはしてないみたいだね、私こそすまなかった」

「いえ・・」

「お召し物を汚してしまい申し訳ない。よければ、洗って帰すので

家まで一緒に来てもらえるとありがたいのだが・・」

「え?」

「女の子をこのまま返すわけにいかない」

黙る結月

どっちみち、知り合いも行くところもない

一人で飢え死にするよりも

初対面でも、優しいこの人たちについていくほかなかった。

「お願いします・・」

「もちろん礼儀として当然です。お体も冷えていることでしょうから」

微笑みながらそう答えた。

そして自身の羽織を女の子にかける。

「ありがとうございます、でも汚れちゃいます」

「お気になさらずに、さぁ、行きましょう」

「紫苑、私はいいからこの子に傘を」

「惣介様・・」

紫苑は少し考え、女の子に傘を差した。

「ありがとうございます」

そして、惣助たちに連れられ家まで歩いていく。


辺りが暗くなっていく頃、案内されたのは大きな屋敷。

「ここです、どうぞ」

結月は屋敷を前にして驚きを隠せない。

「どうかされましたか、遠慮なくお入りください」

「・・はい」

足を踏み入れると勢いよく足音を立てて入ってきた

一人の青年と目があう

「ただいま」

「ただいま帰りました」

「お邪魔します・・・・」

「だれ?」

「鈴丸、ちょっとわけがあって」

「へ~、もしかして惣助のおんな?」

「こら鈴丸、変なこというんじゃない」

「いひひ~」

鈴丸はこぼれそうな笑顔で居間へ向かっていく

「まったく。紫苑、冬弥と竜之介に頼んで

この子を風呂へ入れてあげてくれ」

「え、ちょっ・・」

「はい、ただいま。ではこちらへどうぞ」

いわれるがまま、廊下をついていく

「冬弥、竜之介。風呂はできているか」

「はい、惣介様たちがすぐに入れるよう準備できております」

「では、先にこの子を風呂にいれてあげてくれるか」

二人は互いに目を合わせながら、首をかしげるも

紫苑の言いつけに従う。

「はい、かしこまりました」

「あと、お召し物も洗ってもらえるか」

「はい」

「頼んだよ」

紫苑はすぐさま惣助のもとに向かう

「では、こちらへ」

「・・・はい」

「お召し物はこちらで洗いますので、ここへおいてもられますか」

「えっ・・・あ、はい」


結月がお風呂に入っている間、惣助たちは着替えている

「紫苑、あの子の着物どれにしようか・・」

「そうですね、ここには女性の着物はありませんからね」

「そうだな・・」

考え込む二人

「惣介様、昔の浴衣が余っているのではないでしょうか」

「そうだな、男物だから大きいけれど仕方ないか」

「お召し物が乾くまではそちらでよろしいかと思われます」

「あぁ、では持ってきてくれるかい?一番小さいのを」

「はい、かしこまりました」






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