一期一会~時空を越えて~

@tsuzigahanar

第1話 新たな世界


昼食を済ませ高校までの道を歩く。

今日は高校の合格発表の日。

「はぁー」と深いため息を一つついて校門をくぐる。

合格の張り紙にはたくさんの人だかりができている。

結月の眉間にしわができる。

張り紙に行き着くまで、笑顔と泣き顔がすれ違う。

「328・・・」

握りしめた受験票。

手を開くと、しわになりかけている。

張り紙の受験番号を見つけると

結月は目を閉じ深呼吸をした。

そして高校の外へと動き出だした。


「きっとおなじ・・どこにいても何をしても変わらない。

 毎日の繰り返しに何の意味がある・・

毎日役にたたない授業に勉強、幼稚なお友達ごっこ

時間の無駄遣い・・・」

そこへ突然鳴り響いた電話。

「結月? どうだった? もう見てきたんでしょう?」

電話越しでも、よく通る母親の声が響き渡る

「うん・・合格だったけど」

「え? そうなの、テンション低いから、ダメだとおもったじゃない。

おめでとう」

「・・・うん」

「結月、もっと喜びなさいよ、お姉ちゃんと同じ高校に入れたんだから、

お姉ちゃんに感謝しなくちゃね」

「なんで菜月がでてくるの」

「だって、お姉ちゃんに勉強教えてもらったんでしょう?」

「それは菜月が勝手に」

「ほらっ、そんなこと言わないの!

帰りに近くの神社で合格のお礼してきなさいね」

「え・・」

「せっかく合格できたんだから、ね?

合格のお守りも買ったんだし、行ってきなさい」

「あ~わかったから」

電話の奥で母を呼ぶ声がする

「「平沢さん、ちょっとお願い」」

「はい~ じゃ、お母さん戻らなきゃ」

「うん」

「じゃ、気を付けて」

「うん、じゃー」

電話を切って神社へとだるそうに歩く

「はぁ・・お母さんってばいつも、菜月のことばっかり・・・

まぁ、たしかに?菜月のほうが勉強も運動も学年TOPのいい子ちゃんだけど・・」


お礼参りを済ませ、足早に帰ろうとする。

だが、結月の足は違う方向へ、そして神社の奥深く誰も寄り付かな場所へ

導かれているかのように歩き出す。

「なにここ・・?」

結月が訪れたのは絵馬殿という、奉納された絵を掲げておく建物だった。

「絵・・?かなり昔だな」

雨の音が近づく。

「え、雨。傘持ってきてないのに、ここで雨宿りか・・・」

降り続ける雨は大粒になり次第に雨音を大きくしていく。

そんなことも気にせずに、結月は絵に夢中になっている。

その時、大きな音を響かせ雷が姿を現した。

結月はその大きな音、光に驚く。

ハッとなり振り返ると、そこには思いがけない世界があった。

「え?」

周りを見渡して固まる結月。肩にかけているカバンを落としてしまう。

「ここは・・」

絵馬殿を見上げると結月は目を疑う。

そして建物の柱に触れる。

「こんなんじゃなかったのに・・」

絵馬殿の柱は時代の流れで傷んでいるところが、数多くあるが

その痛みも全くなく、逆に絵馬殿が最近建てられたような綺麗さだ。

「意味わかんない、えっ?」

不安になり雨の中神社内を走り回る。

「なんで?夢・・?」

神社の中を見ても出てくる言葉は同じ。

受け入れがたい現実が頭を占領する。

ずぶ濡れになりながら、神社をでる。

今まで見てきた、生きてきた町は

姿もかけらもない。

まるで教科書の中の世界に入り込んだみたいだ。

明らかに時代が違う。

まさか、こんな事が現実にあるのか。



前方で傘を差している女性を見つける。

紺の着物にまとめられた髪。

「あの・・い、今って何年ですか」

おそるおそる、口にしてみる。

「16年かしら」

「16年・・?」

「そうよ、元禄16年」

「元禄、元禄、江戸の時代」

うなだれる。何かの間違いであればと思う。

幻覚であれば、夢であればよかったたと、願う。だけど

何度頬をつねっても結果はかわらない。

「あんた、見ない顔だね、身なりも!」

「・・・」

うつむきながら、あてもなく歩く。







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