5 鎌風と大将
ルカのバイクは、オイル交換のみで
辛うじて まぁ良し となった。
各所々々の部品が 劣化してきておるようだか
『今日、乗らなきゃいけなくてさぁ。
泰河もジェイドも、車 使ってるしー』と ごねると
『夏前に、ここに置いて行くこと』と 申し渡され
『うん、わかったぁ』と、ガレージを出る。
俺も 手など振った。
「おっ、カッカ言わねーじゃーん」
「うむ。良かったのう」
だが 猫等の伝達も無く、行き先は 定まらぬ。
街路樹の下や ビルの隙間、店の前。
街の あちらこちらに猫等は おるが
肝心の鎌鼬が出ておらぬのだ。
「うーん... 住宅街の方がいいのかなー?
仁成くん家のマンションの方、行ってみるかな。
“友達が カマイタチにやられた” ってことは
あの辺りに出たんだろーし」
ルカが言うには
仁成という者は、現在 中学生である故
その通学路に 鎌鼬が出たのであれば
学区内に出没したのであろう ということじゃ。
仁成には、錯乱した蓬が 憑いた事があり
ルカが祓っておるので、自宅は知っておる。
その辺りの中学校周辺に、また出るやもしれぬ... といった 推測であった。
「オレ、5歳くらいから この街に居るけど
カマイタチなんか 出たの、聞いたことないし
何か用事あって、どっかから流れて来たのかな?
って 思うんだよね。
その中学校近辺に、何かあるのかもだしさぁ」
俺も、鎌鼬など聞いたことは無い。
出没した現場付近を見ておくのは 良いかもしれぬ。
「うむ。行ってみよう」
そういった訳で、再び移動する。
河川敷沿いを走り、先程とは別の住宅街へ入るとコンビニの駐車場に バイクを停め
「あの でかいやつが、仁成くん家があるマンション。中学校は この付近のはず。調べてみるー」と
スマホを取り出した。
「おお」
コンビニの自動ドアが開き、桃殿が姿を現した。
「おっ、桃じゃん」
ルカも スマホから眼を上げる。
「二山には?」と 聞くと
「うむ。洋館の者等に 聞いてみたが
鎌鼬の噂すら知らぬであった」とのこと。
コンビニには
「これを買いに寄ったのだ」と
シールが貼られた ミントタブレットを見せた。
「ああ、美味いね。オレ、全部食う前に
失くすこと多いけどー。
ジェイドん家のテーブルに置いてたら
誰か 持ってってるしー」
「刺激的であるのだ。様々な味のものも出ておる」
桃殿は、俺とルカにも 小さな粒を配り
自身も ひと粒食べた。
俺も口に入れてみると、うむ。
これは スーッとして良い。
ルカが「あっ、学校は これっぽいな」と
スマホ地図を見ておる間に、俺もミントタブレットを買いに、コンビニに入った。
菓子の棚、ガムなども並ぶ場所にあり
迷う程 種類もあったが、期間限定 と書かれておった 桜桃味のものを選んだ。
「シールで」と、貼って貰うたが
コンビニの外で 外装を剥き、桃殿とルカにも分け
これも食べてみたが、うむ。良い。
スーッとした感覚は 多少薄いものの
桜桃を想起させる匂いが 鼻に抜けるのだ。
「オレも 一個、買って来よかな」と ルカが言うておるが、桃殿が ルカのスマホの地図を覗き
「むっ... 」と唸った。
「ん? 何?」と、ルカが聞く。
俺も スマホを見てみると、地図に印のある学校は
風夏の学校ではなかろうか?
風夏は、幽世に居る 柚葉の妹であり
榊や桃殿、ボティスと、部活動のバスケの試合を
観戦に行くなどし、気に掛けておる。
「先に行っておく。此れにて御免!」
手に印を結んだ 桃殿が消える。
コンビニの屋根から ふぐりで飛び立たれたが
「えー、急に どうしたー?」と
ルカが 空の桃殿を見上げるが
「ルカ。俺等も向かおう」と 急かし
ヘルメットを被った。
********
中学校の近くに着くと、バイクを降りた。
ルカが バイクを引いて歩く。
鉄柵で閉じられた 学校の校門から、中を窺うと
校内は ガランとしておった。
「テスト期間中って、下校 早いんだよね。
仁成くんは、“明日まで” って 言ってたから
明日から 部活とかは あるんじゃねーの?」
ならば、風夏も 他の生徒等も
自宅で勉強しておろう。
「おお、参ったか」
狸姿の桃殿が「グラウンドなども無人である」と
校門の鉄柵を ひょいと飛び越える。
「あっ、そんなこと出来るんじゃん」と
ルカは感心しておるが、先程は コンビニの屋根に飛ばれたからのう。
まだ明るくあるが、夕刻であり
校内には、教師等も居らぬようである。
「風も
学校の周り、一周してみよーか?
桃、バイクに座っていいぜ。このまま 引いてくからさぁ。浅黄も 狐になって乗るぅ?」
どうやらルカは、狸姿の桃殿が
バイクに座るところが見たいようであった。
桃殿は、何の気無しに
「うむ」と シートに飛び乗ったが、俺は
「狐まで乗っておると、目立つ故」と 遠慮する。
「そ?」と 残念そうにあるが
流石に公道で、二匹は なかろう。
「桃、似合うじゃん」
「うむ。格好良い狸である」
「む? そうか?」
桃殿は シートに立ち、小さな前足を左右に開き
ルカが持っておる、蟷螂の鎌の如くに見える ハンドルグリップの内側に掛けた。
おお、可愛らしくある。
「ぎゃあ! 写真に撮れたらいいのにさぁ!」
「霊獣は写らぬからのう」
「おお、ルカ」
四郎の声じゃ。
学校の正門から 半周ばかりし、裏側に出たが
右側に 道路を挟み、学校の門の外壁。
左側には、家々や駐車場。
学校の駐車場と思わしき場に、ジェイドのバスが停まっており、中から 声がした。
「私共も、何周か回ったのですが
皿の音は聞こえず... 」と、右のドアが開き
四郎が降りて来る。
運転席側からは ジェイドであるが
「桃!かわいいじゃないか!」と
笑顔でバイクへ近寄った。
「む... 」と 複雑な狸顔の桃殿に
「いや、カッコいい」と 言い換え
「ルカ、僕がバイクを引く」と
ルカから ハンドルを引き受けておる。
「私も、先日 乗せて頂きましたが
大変に 心が昂りました。
普通二輪であれば、もう取得可能な年齢なのですが... 」
しかし、ルカやジェイドは
「まだ だめー」
「自転車があるだろう?」と いった具合じゃ。
「こうやって、引いて歩けなかっただろ?
倒れても起こせねーだろうしさぁ。
これ 400だから、免許は大型だけど」
「そもそも、バイクは危ない。
車でいいじゃないか。三年生になったら
学校から、自動車学校へ通う時期がくる と 聞いた。その時まで どの免許も必要無い」
兄等は、
桃殿も俺も、兄等に賛成である。
だが 四郎自身も
「おお、そうでした! いつか リョウジや友等と
自動車学校へ通うのも楽しみです!」と
涼やかな眼を輝かせておる。素直であるのだ。
「そうだ、カマイタチは 見つかったのか?」
「まだー。あっ、オレら 猫里に行って来てさぁ。
仔猫たちが生まれてて!... 」
仕事の話から ずれていくようであったが
「何か 分かったかのう?」と
いつの間にやら、隣に ぬらりが居った。
「ぬらり翁」「じいちゃん、おかーりー」
「乗らないか?」と、ジェイドが止まり
ルカが、ぬらりを 桃の後ろに乗せた。
ぬらりは、シートに正座しておるが
ヒョッヒョ と 喜んだ。
「この付近の童等に、話を聞いて回ったところ
先日、学校が 慈善活動で、不用品や廃品の回収をしたようだの。
段ボールや何や は、業者が持って行ったようじゃが、箱入りで仕舞われておった皿など、まだ使えるものは、
安価で売られるようじゃ」
「ほう... 」
「では、体育館に それ等が保管されておる と?」
「うむ、そのようよ。
先程 入り込んでみると、段ボール箱が何箱か有り
皿やタオルなどが入っておった」
「あー、なら 皿の音の方は、
たださぁ、付喪って “使い古した道具” から
物の精霊みたいのに なったりするし、未使用だと どうなんだろ? とは 思うんだけどー」
「でも、新品とは限らないじゃないか。
“古いから要らない” と 出されたものもあるんじゃないのか? 桃、神隠しは出来る?」
ジェイドは、不法侵入を目論んでおる。
皿の霊の怪音を解決する というよりは
「しかし、バイクは?」
四郎も そういったつもりであるようじゃ。
半分程は 解決せねば という意志も見えるのだが。
「さっきの駐車場に停めて来るよ」
桃殿や ぬらりを乗せたまま、ジェイドが バイクを停めに行く。
「もう少し先に、体育館とグラウンドに 面した
門があるのです。錠前は、南京錠で御座いましたので、入ることは出来ましょう」
解錠などするつもりであるが、ルカは
「けど もし、周りの家に 防犯カメラとか付けてあって、学校の門も写ってたら、神隠ししてても
門が開くトコ 撮られるし。
あのくらいの門だったら、オレもジェイドも
越えられるしさぁ」と 答えた。
バイクを停め、戻った ジェイドであるが
忽然と現れた。
どうやら、桃殿が 神隠しを掛け
その中に俺等も入れたものらしい。
外側から見ると、もう 姿は見えぬであろう。
『猫じゃん』
ジェイドは、猫を抱いており
『僕の足に 身体を擦り寄せてきたんだ。
お腹も見せてくれた』と 笑顔であるが
『伝達やもしれぬ』と、桃殿が ルカを見る。
ルカが 額に触れると、やはり そのようで
『
言うた。
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