第2話

「ほほほ、もう家に帰ったら居るはずだからよろしく頼むぞ、それじゃあの」


そう一方的に告げると叶の義父は電話を切ってしまった。


「相変わらず訳がわからない爺さんだ……」


しかし自分の義父が少し特殊な人間であることは自分を拾った時から理解していた叶は大きく驚いたり焦ったりはしなかった。


今回の件はいつもよりぶっ飛びすぎていて多少の困惑は隠せなかったが。


叶は大きな溜息を一度吐いてまた家に向かって早々と歩き出した。


「…………」


おかしい。絶対におかしい。と、叶は額に冷や汗を浮かべながら自宅前の光景を見ていた。


「…………………………」


目の前にあるのは旅にでも出るのだろうかと勘違いする程に白く大きな布袋。しかし問題はそこでは無かった。


「…………なんで動いてるんだ」


その白い袋はもぞもぞと動いていたのだった。

今にも何か出てきそうなその袋は間違いなく宅配物などでは無い事が見て取れた。


「…………………」


袋の中のソレは動くだけで一切喋ることは無く、その事がより一層叶の恐怖感を煽っていた。


「まさかこの中に爺さんの言ってた子供が入ってるのか……?」


どう考えてもおかしい。

ぶっ飛んでるとかそういう次元じゃない。

そもそも誰の子?爺さんの子だとしたら元気過ぎだろ、もう70近いぞ?じゃあ孫?それでも何故?


袋を開ける前から叶の頭はフルで回転していた。


「……ていうか袋の中で監禁とかトラウマもんだろ!!」


冷静になった叶は急いで勢い良く袋を開ける。

後で爺さんぶん殴ろう。本気でそう思っていた。


「…………」


袋をバッと開けたそこには。


「あなたは…………だれ?」


穏やかで綺麗な蒼い瞳、高い鼻の美しい顔立ち、簡単に地面に着いてしまうほど長いながらも綺麗な髪の毛を下ろした幼女と少女の中間くらいの背と顔立ちをした女の子がちょこん、と座っていた。


「ガチか…………」


唖然としていた叶の口から最初に出てきたのは驚きとも焦りとも取れる一言だった。


「がちか?」


叶の目の前の女の子は叶の言ったことを復唱しながら不思議そうな顔でじっと見つめていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


叶は女の子を自宅にいれて椅子に座らせて、冷たい水を差し出した。


「暑かっただろう、具合悪かったりしないか」


叶の質問に白髪の女の子は水をごくごくと飲んでから答える。


「だいじょうぶ、狭い所のほうがすきなの」


「そうか……それで、君はあの爺さんが送り付けてきた人間で間違いないのか?」


叶のその質問に女の子は首を傾げた。


「爺さん? おくりつけ……?」


女の子は言っていることを理解出来ていない表情をみせる。叶の心臓には何やら胸騒ぎがした。


「…………君、名前は?」


即座に質問を変えると、それなら知っていると言った表情で少し口角を笑って答える。


「わたしの名前はれい!」


「そうか……玲、君はあの袋に入れられる前は何処にいたんだ?」


叶がその質問をした時だった。


「っ……!」


玲の表情は一気に淀んだ。

先程のにこやかな笑みは一変し、何かに怯えてるような表情に豹変した。


だが玲は少しすると、綺麗な瞳に涙を浮かべながらも冷静でいて、落ち着いた口調で口を開いた。


「……ママがいなくなって……それで……」


玲は泣きながらもずっと何かを話し続けた。

それを叶は怒りとも取れる鋭い目で静かに聞いていたが。


「………いい」


「え……?」


玲はボロボロ泣きながらも話し続けていたが、叶のその強い言葉に言葉と涙が止まった。




「爺さんが俺にお前を寄越した理由もお前の事情も分かった。だからそれ以上は話さなくていい」

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捨てられた高校生、父になる。 Ai_ne @ai_ne_kakuyo25

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