第5話 ユウキ リン



 ユウキ リンは幼馴染だ。

 リンという名前が女の子のみたいで、本人はコンプレックスを感じている。名前で呼ばれるのを嫌がった。オレもずっとユウキと呼んでいる。

 ユウキはイケメンだ。顔が良くて、性格も良くて、勉強が出来る。その上、スポーツも万能。……当然、モテた。昔から女の子にはちやほやされる。

 だが、本人にはそれも負担だったようだ。きゃあきゃあ言われるのを嫌がる。

 ユウキは男の子とばかり遊んだ。女の子にはちょっと冷たい。

 だがそれでもイケメンはモテるらしい。小学校の学年が上がる度、そのモテ度はアップした。

 何人も女の子が告白してくる。しかし、ユウキは全て断った。女の子には苦手意識がある。

 ある日、断る理由を問う強者がいた。

 小学校も高学年になると、女の子はマセる。恋にもかなり本気だ。

 好きな人がいるのかと、彼女は聞いた。いないならお試しでいいから付き合ってくれと言い出す。

(ウザい)

 傍で見ていたオレでもそう思った。

 ユウキもだんだん苛立っていく。

 その子の凄いところは、教室のど真ん中でそれをやり始めた事だ。

 クラス中が固唾を飲んで成り行きを見守っていた。

 ユウキはオレを振り返る。

「?」

 何故見られたのかわからなくて、オレは首を傾げた。

「一番好きなのはケイタだ」

 唐突に、ユウキはそんなことを言う。

 オレもびっくりしたが、クラス中がざわついた。

「ケイタ以上に好きなった相手としかオレは付き合わない」

 ユウキは宣言する。

 巻き込まれたオレは動揺した。

 質問した女の子は悔しそうに唇を噛み締める。キッとオレの方を見た。睨んでくる。

(睨まれても)

 正直、困った。

「イシガミくんは男じゃない」

 彼女は文句を言った。オレを指さす。

「それが?」

 ユウキは問い返した。 

「相手が男でも女でも、好きという感情は一緒だ。ケイタ以上に好きな相手としか、付き合う意味を感じない」

 きっぱりと言い切る。

 一部で、女の子の歓声が上がった。とても盛り上がっている。

「どうして?」

 あきらめ悪く、告白してきた彼女は問い続けた。

 ひれにユウキはやれやれという顔をする。

「だって、付き合ったらケイタより相手を優先することになるだろ? ケイタより好きな相手でなければ、彼女を優先するのは無理だ。そんなの、付き合う意味ないだろ?」

 ユウキは問いかけた。

「……」

 相手は言葉に詰まる。

 正論は正しいからこそ、相手にはきつかった。

「だったら、ユウキ君はイシガミ君と付き合えばいいんじゃない? 一番好きなんだから」

 女の子の誰かがそう言った。それが冗談だったのか本気だったのかはわからない。

 だが、ユウキはなるほどという顔をした。

「確かにそうだね。考えたことなかったよ。オレはケイタと付き合えばいいのか」

 オレを見る。

「ケイタはどう?」

 問われた。

「え? そんなこと突然言われても」

 オレは困る。

「……姉ちゃんに相談してもいい?」

 返事を保留した。

「姉ちゃんに相談するのかよっ」

 誰かの野次が飛ぶ。

「そうだよ、悪いかっ」

 オレは反論した。シスコンであることは自他共に認めている。

 付き合う相手に求める条件はただ一つ、姉と仲良く出来ることだ。姉とケンカをするような相手とはどんなに好きでも付き合えない。姉以上に、彼女のことを好きになんてなることはないから。

(その条件、ユウキなら楽勝でクリアなんだよな)

 苦笑が漏れる。

「可能性はあるのか」

 ユウキは笑った。その顔は嬉しそうに見える。

「ボクもユウキのこと好きだよ。姉ちゃんの次に」

 答えを聞いて、ユウキは満足そうに頷いた。

「ネエちゃんの次なら凄いな」

 そう言って、笑った。




 その日の夜、会社から帰ってきた姉にユウキとのことを相談した。教室であったことを話す。

「今時の小学生って凄いのね」

 姉は妙に感心していた。

「11歳でもすでに女なのね。女の子なんて可愛らしいものではないわ」

 笑い出す。

「笑い事じゃないよ」

 オレが怒ると、姉は真顔になる。

「ユウキくんならいいんじゃない?」

 簡単に言った。

「ユウキくんはイケメンだし、将来も有望そうだから、わたし的にはアリよ。将来、ケイタとユウキくんと3人で暮らせたら楽しいわね」

 にこっと笑う。

 姉のOKを貰って、ボクはユウキと付き合うことになった。


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