542 ディフェルナルの手土産
レジドルナの冒険者ギルドの追討。この話を詳しく伝える『
まず冒頭、全貴族の三分の一以上の賛成を得て貴族会議が開かれる事になったと、高らかに伝えており、その紙面はアウストラリス公や支持貴族の喜びを感じ取られるぐらいの勢い。その中で、国王派第一派閥のウェストウィック派が賛成した事が開催の決め手になったと書かれているのは、まぁ当然の話だろう。
記事には約一ヶ月後に開催される貴族会議のスケジュールが書かれていた。建議成立後、十日間で委任状の確認が行われ、問題がなければ十四日後に貴族会議が開催される。今日から起算すると二十日後に開かれる公算。三週間後の週明け早々に貴族会議が開かれる見通しだ。このように書かれているのを見ると、貴族会議が迫って来るのを実感する。
この『翻訳蒟蒻』や『小箱の放置』、『蝦蟇口財布』と『無限トランク』の四大誌。実はリサもザルツもロバートも持ってきてはくれなかった。頼まなかった俺も悪いのだが、少しは気を利かせてくれても良かったのに、とは思う。仕方がないので、ジルに使いを頼んで学園へ取りに行ってもらったのだが、俺に届いた封書も一緒に持ってきてくれた。
(コルレッツからか・・・・・)
どうやら俺が学園を開けている間に届いていたようだ。中に入っていた便箋にはジャックからのものと、コルレッツからのものと二通入っており、共に俺の襲撃事件を知って気遣う内容のものだった。二人は事件の全容を知らず、俺の状況も分からないので、見舞いを出したという感じである。
ただその内容は対照的で、ジャックが王都の警備と巡回をより強めていくしかありませんと決意を示しているのに対して、コルレッツの方はこれからどうすれば分かりませんと困惑気味に書いてある。双子ととは言っても、性差も経験の差もあって、言っても全く違う二人だなと思った。俺は今の状況を
放課後、アイリが黒屋根の屋敷に来てくれた。実はアイリ、昨日渡した魔装具を使い、魔導回廊を通って屋敷へやって来たのである。俺が動けない状態なので、魔装具を持ってもらい、アイリの方から来てもらうようにしたのだ。レティもどうだと声を掛けたのだが、「要らないわ」と言われたので、レティには魔装具を渡せなかったのである。
多分、俺の渡し方がマズかったのだろう。おそらくはアイリの
そのような理由でアイリにだけに渡す形になった魔装具。実はザルツが持っていた予備の魔装具をトーマスに貸し出したのを見て、俺も予備を持っておいた方がいいと思ったのである。なのでリサに頼んで、二台ほど仕入れてもらっていたのだ。その内の一台をアイリに渡し、もう一台をレティにと思ったのである。
結果はアイリだけに渡した魔装具だが、一つ困った問題が起こった。どういう訳か、魔装具を通して会話が出来ないのだ。不調なのかと思って、もう一台の魔装具に変えたのだが、こちらの方でも会話が出来ない。どうしてなのかと思ったのだが、魔導回廊を開けることが出来たので、これでいいとアイリが頷いた。
「だって、これを使って屋敷に来れば、グレンと話せるじゃない」
嬉しい事を言ってくれる。アイリのこういう優しさが好きだ。佳奈には申し訳ないが、こんなアイリのような優しさのような部分は無かったな。まぁ、人それぞれ皆違うんだから、あれこれ言っても仕方がないのだが、俺の所にアイリが来てくれた事だけでも嬉しい。しかし魔装具に関しては、身体が元に戻ったら一度魔塔に持っていって確認してみよう。
アイリは昨日見送りをしたからだろう、以前三人でリッチェル子爵領へ訪れた時の話をした。あの時は子爵領とアイリの故郷ドシラド村に、小麦を届けに行ったんだよなぁ。リッチェル子爵領での出来事。街で小麦を引き渡した時の
「皆さん、無事に帰って来られたらいいのに・・・・・」
ポツリとアイリが言った。やはり子爵領に向かったミカエル達が心配なのだな。だが、リサやダダーン、第三警護隊も付いている。加えてリッチェル子爵領にはダンチェアード男爵やババシュ・ハーンら
「南から子爵領に入ると道が狭くなる「セラミスの切り通し」があっただろ」
「あっ、あったわ。通った通った」
「あそこを封鎖するんだ。あそこなら多くの相手から攻められても、少ない人数で守られる」
「!!!!!」
アイリがハッとしている。おそらくはミカエルもリサもそれを考えている筈。そもそも対岸にあるレジとドルナの間の橋をレジ側の人間が封鎖したが為、自分達が橋を渡ってドルナへ行けなくなった。だから迂回路であるリッチェル子爵領を南北に貫く支線を通って、ドルナの南側に回り込み、王都やムファスタに通じる道を封鎖している。
そうした状況下「セラミスの切り通し」が封鎖されたら、支線を通ってリッチェル子爵領の南側から入る事は不可能。ドルナ封鎖に従事している、レジドルナの冒険者ギルドの登録者達は、レジ側に戻ることは出来なくなる。リッチェル子爵領で冒険者ギルドの連中を分断する事ができるのだ。だが問題は子爵領の北側。
この北側。子爵領を出て暫く先に、レジとモンセルを結ぶ幹線と結ぶ橋が架かっている。もしこの橋を抑える事が出来るならば、北は橋、南は切り通しという
つまり寡兵を以て、レジドルナの相手の動きを封じ込める事ができるのである。もし俺が思っているような形で展開したならば、ドルナ封鎖に従事している、レジドルナの冒険者ギルドの連中は行き場を失う。何故なら「セラミスの切り通し」を通ってレジ側に帰れなくなってしまうからである。
「だったら、皆さん無事に帰ってこられますね」
「ああ」
間違いないとは言えなかった。何が起こるか分からないのだから、断言なんて出来ない。しかし、アイリの顔を見ると、言えなかったのである。ただ、リサもいるし、ダダーンもいる。それに王都やムファスタから『常在戦場』の隊士が多数向かい、近衛騎士団も出陣するのだから、大丈夫な筈。そう信じて待つしかないだろう。
――アイリは次の日も来てくれた。来てくれたのはいいのだが、暫くしてスピアリット子爵が嫡嗣であるカインやドーベルウィン、スクロードや武器商人のディフェルナルを引き連れてきたのである。カインやディフェルナルは分かるが、どうしてドーベルウィンやスクロードまで一緒なんだ? 一瞬「えっ」と思った。
が、よくよく考えれえばスピアリット子爵とドーベルウィンの父、統帥府軍監であるドーベルウィン伯は親友だったな。スクロードはドーベルウィンの従兄弟だし、父親のスクロード男爵は近衛騎士団長。みんな本当に近い間柄。それに気付いた俺は、ようやく合点がいったのである。
この突然の訪問にアイリも驚いていたが、剣聖閣下の来訪という事で、可哀想だが別室に待機をしてもらうしかない。アイリにはニーナのところへ行ってもらった後、ジルの案内で執務室にやってきた五人を立って出迎えた。剣聖閣下がわざわざこちらに足を運んでいるというのに、座って待つという訳にはいかない。
だから松葉杖を突いて立っていたのだが、それを見たカイン達は心配そうに俺の方を見てくる。俺自身はそうでもないのだが、傍から見ているとかなり痛々しく見えるようだ。口々に「大丈夫か」「心配してたんだぞ」と声を掛けてくれる。ところがスピアリット子爵一人だけは全く違っていた。
「思った以上に元気そうだな」
皆とは対照的に、機嫌よく軽妙な物言いで声を掛けてきたのである。人によっては「なんて不謹慎なんだ」と言われるかもしれない。が、今の俺にとってはその方が気が楽。「お陰様で」と子爵閣下に返すと、タイミングを見計らっていたのか、ディフェルナルが杖を差し出してきた。これは・・・・・ 『詠唱の杖』じゃないか! 手に入ったんだな。
「一番のお見舞いになろうかと思いまして・・・・・」
「ありがとう、ディフェルナル!」
俺は松葉杖をついているので、そのまま受け取る事ができない。なので商人特殊技能『収納』で引き取った。俺はジルにアイコンタクトを送り、子爵らをソファーへ案内してもらい、皆が着席した後に座る。何日も使っているのだが、どうも松葉杖というものに慣れないので、何かもどかしい。早く普通に歩けるようになりたいもの。
座るとディフェルナルから『詠唱の杖』を手に入れた経緯の説明があった。コルレッツが杖を売り払った店を調べるまでは簡単だったが、その後が大変だったらしい。『詠唱の杖』を買い取ったはいいが売れないので、他の売れないものと一緒に同業に安値で引き取ってもらったそうだ。そこから何人もの人間の手に渡っていったというのである。
「最終的に骨董を売り捌く露天商の手許に流れ着いておりました」
「そんなところにか!」
「ですがその後が・・・・・」
ディフェルナルが言いにくそうにしている。何かあったのだな。しかしそれにしてもコルレッツのやることなすこと、本当に一筋縄にはいかないよな。捏ねくり回す技術に関しては天下一品ピンピンピンである。俺はディフェルナルに、気にしないから、とにかく言ってくれと促した。
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