063 リサ・アルフォード
『モンセル・ディルモアード』の中にあるレストランの個室に入った俺たちは、紅茶を飲みながらリサを交えて暫し歓談した。アイリやレティが熱心に聞いたのは、やはりリサのファッション。パンツはリサが自分でデザインしたものをブティックに作らせているのだが、二人にとってはそれ自体が驚きだったようだ。
対するリサは学園のことを二人に色々聞いていた。リサはこれまで学校で学んだことは一度もない。全て家庭教育と自学自習だ。それであれだけできるのだから大したものだ。実はリサも俺と同様、学園で学ぶことは何もないのだが、どうして学園に興味があるのだろうか?
「あーあ。私がグレンの妹だったら良かったのに」
「どうしてだ?」
「来年学園に通えるから。モンセルの推薦枠使って」
「行っても学べることなんてないぞ!」
「だって通いたいもの! グレンが学園通うことが決まって、とっても羨ましかったの」
そうだったんだ。知らなかったわ、ごめんなリサ。するとアイリが不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「通えなかったのですか?」
「ええ。私の時には、アルフォードはまだモンセルギルドの会頭じゃなかったので、推薦枠の存在自体を知りませんでした。ですから通いようが・・・・・」
アイリが話を聞いて申し訳無さそうな顔をしている。リサは気になさらずにと首を横に振った。
「私が努力をしなかったからなのですよ。最初から諦めていたので」
「でもグレンは違ったのです。自力で扉をこじ開けた」
「ほら! やっぱりグレンじゃない!」
リサの話を聞いたレティが、俺に襲いかかってきた。
「貴方、ロバートが頑張ったからと言ってたわよね。違うじゃない!」
「ロバートの頑張り
「グレン! 貴方はいつも本題から逸らそうとするわ。いい加減認めなさいよ、貴方がアルフォード商会の会頭就任の原動力だと!」
「・・・・・」
「リッチェルさんの言われる通りですよ、グレン」
「リサ、お前・・・・・」
後ろから刺された気分だ。
「レティの言う通り
「私の
勝ち誇った顔で俺に言うレティ。なんで俺にマウントを取ろうとするのだ、君は。
「リサさん。いつもグレンはこんな調子で?」
「はい。昔から変わらず」
「まぁ! 小さい頃からひねくれちゃって! いい加減正直になりなさい。私たちの前ぐらい」
「そうですよ、グレン!」
レティの攻勢にサラリと加勢するアイリ。女が三人集まればなんとやら、だろうが、ここで言うと間違いなく十字砲火を受けそうなので、とりあえず首肯しておくことにした。馬車から降りて時間も経ったし、そろそろいいのではということで、コース料理が運ばれてきた。俺たちは丸一日、食べていないような状態だったので、みんな食が進んだ。
「ワイン、ダメなの?」
「今日はダメ。ワインは明日だ。思いっきり飲んでいいぞ」
レティの駄々に俺は答えた。明日はレティのアイテム『護りの指輪』をゲットすべく、ダンジョン攻略に影響を及ばさないようにする為にワインが飲めないのだ。理由が理由だけにレティも納得せざる得ない。その後、話題がアルフォード家の話となり、父親のザルツの話になった。
「硬いところがあるのよね、お父さん」
「そうそう、俺が入学時に借りた三〇万ラントを返そうとしたら頑なに断るしなぁ」
「そう言えばお父さん言っていたわよ。グレンが立て替えた一五〇億ラント、返すと言っても受け取らないって・・・・・」
「グレン! どういうこと!」
あれ? なんだ? リサの話にレティが反応してしまっている。地雷を踏んだのか?
「リサさん。それって『王都ギルド』のお金ですよね」
「ええ、レティシアさんの言う通りよ。アルフォード商会の分のお金」
四人で話していく間に皆が打ち解け合い、リサは「アイリスさん」「レティシアさん」、二人は「リサさん」と呼び合うようになっていた。
「確か『金融ギルド』のお金って、グレンが三五〇億ラント出したと言っていましたよね」
「もしかして、それとは別に一五〇億ラントを?」
アイリの指摘を受けて迫らなくてもいいのに、レティが核心に迫ってくる。
「・・・・・まぁ、そんなところだ」
「全部で五〇〇億ラントってありえないでしょ!」
「グレン! 貴方一体いくら持っているのよ!」
「責めませんので、正直に言ってあげて下さい」
いやいやいや、アイリよ、十分責められているぞ。抵抗するだけ無駄のようだったので、俺は諦めて言うことにした。
「今、三七〇億ラントほど・・・・・」
全員が固まっている。というか呆れているのに近い感じだ。特に話せと言ったアイリがブロンドヘアーの人形と化している状態なんて、もう笑うしかないだろう。他にも現物で持っているビートやエリクサーなどがあるのだが、それを言えば更に面倒な事になりそうだ。
「グレンもしばらく会わない間にすっかりお金を増やしちゃって・・・・・」
リサが抗議とも擁護とも言えない、謎理論を展開しだした。人の間合いを外す物言い。昔っからやるんだよなぁ。これを。
「合わせて八七〇億ラント。もうすぐ1000億ラントねぇ」
リサの間の抜けた言葉に我を取り戻したのか、レティが声を上げる。
「まあ! 合計八七〇億ラントだなんて! 絶対におかしい数字よ!」
「だから黙ってたんじゃないか。この事を知っても、お金が欲しいとか、貸してとか言わない君等が知ったってデメリットしかないんだから」
「もしこれで人からタカられたら困るだろ。俺はそっちのほうが心配だ」
「それはそうだけど・・・・・」
俺の言葉にレティが戸惑っている。そうなのだ。レティもアイリも俺がいくらお金を持っていたところで、そういう事を言う人間じゃない。信頼関係を壊すような二人じゃないのが分かっているから、言わないようにしているのだ。人から俺のことをどう言われようが、知らなければそれまでの話。だが知っていれば、そうはいかないだろう。
「私たちのことを考えて言わなかったのですね」
「ああ。知ったところで得にはならず。知れば損にしかならないんだから」
「確かにそうね。少し言い過ぎたわ」
レティは俺の意図を気付いたようである。まぁ、隠すつもりはなかったのは事実なので、理解してくれたらそれでいいんだが。
「でも、あまりな無茶はやらないでね」
妙に真剣な顔で言うレティ。
「そうですよ、グレン」
アイリの方はいつもの調子なのだが、レティは一体どうしたのだろうか?
「まぁ、心配されてますね」
そう言ってリサが微笑んでいるが、ゲーム感覚で増やしたカネ。安易に増えていくカネだ。こういう事が余裕で起こるような元々おかしいエレノ世界の中、どれが無茶で、どれが無茶でないのか判断は正直に悩むところ。
「そろそろお部屋に案内しますね」
俺が考えていると間合いを計っていたのだろうか、リサがみんなに移動を促した。ニコニコ微笑みながら、タイミングを読むのはリサの以前からの習性である。抜け目ないと言ったらそうだろうが、本当に卓越した技術だ。
リサが案内してくれたのはスイートルーム。のはずなのだが、両開きのドアが一つしかない。
「おい、リサ。ドアが一つしかないぞ」
「はい。皆さんこちらで」
「え、ちょっと待って!」
レティが慌てて言った。アイリの方を見るとうつむき加減に顔を赤らめている。なんだこの空気は。
「リサ。みんなの部屋は?」
「はい、こちらです」
ニコニコとリサはドアの方に手をやる。
「み、みんな一つの部屋なの?」
「はい。スイートルームですから」
戸惑いながら聞いているレティにニコニコしながら答えるリサ。おい、何考えてるんだ、リサ。
「大丈夫ですから、皆さん入りましょう」
何が大丈夫なんだ? 何か恥ずかしそうにしているレティとアイリに、どうぞどうぞと部屋の中に案内するリサ。しかし尻込みして動かない二人。するとリサはニコニコしながら二人の背後に回り込み、どうぞどうぞと背中を押して部屋の中に押し込んでしまった。昔っから、強引なところがあるよな。一連の動きを見ながら、俺は昔のリサを思い出した。
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