049 天よ、トーリスの為に泣け

「おい! 何故、君たちが居るんだ?」


 今日は学年代表コレット・グリーンウォルドを招いての生徒会政局報告会の日。フレディとリディアとの練習を終え、風呂に入り、会場であるロタスティの個室に入った俺は、集まる予定のない、二人の生徒を見て思わず言った。


「ごめん、グレン」


 申し訳無さそうに謝ってきたのは童顔のクルト・ウインズ。


「どうしてもと言うから断れなくて・・・・・」


 クルトは断れないよな。相手がアーサーじゃ。


「アーサー。お前が聞いて面白いか?」


「レティシア様が来ると聞いたんでな」


 はぁ? なんでそこにレティが出てくる。というかどうしてスクロードまで居るのだ。


「いや、僕もレティシア様とお近づきに・・・・・」


 何を言ってるんだ君は。アイツは悪魔だぞ。君らの手に負えるようなやつじゃない。


「大体、お前ら事情を分かってんのか?」


「ああ、大体聞いてる。なんでこんなネタ、教えてくれなかったんだ?」


「関わった人間以外が知っても仕方がないだろ、こんな話」


「いやいや、面白いぞ、これ」


 アーサーが楽しそうに答える。


「スクロードはどうなんだ?」


「僕も面白いと思ったんで、お願いしたんですよ」


「面白いのか? 君等・・・・・」


「よろしいのではありませんか、グレン」


 俺が呆れていると、二人の従者を従え、個室の一番奥で目を伏せて椅子に座る、亜麻色のロングヘアーの女子生徒が静かに口を開いた。


「すまない」


「いえ、聞く内容は人数が増えても変わりませんから」


 クリスがそう言うので俺は引き下がった。俺がみんな座ろうや、と声をかけたので、クルトもアーサーもスクロード、そして二人の従者トーマスとシャロンも席についた。人数が多いと広そうな個室も狭く感じる。しばらくするとアイリとレティもやってきた。


「あれ? 貴方たちは・・・・・」


「お前をひと目見たいんだってさ。人気あるな」


 暫し固まるレティ。こういうおちょくり方なら効果的なんだな、レティは。


「まぁ、いいじゃないか。座ろう座ろう」


 レティとアイリスが椅子に腰掛けてしばらくすると今日の主役、生徒会学年代表のグリーンウォルドが個室に入ってきた。走ってきたからか、顔が少し上気している。


「今、終わりました」


 息を切らせながら興奮気味に言うグリーンウォルドに、まぁ座ろうやと進めると、給仕に言付けて料理を出してもらった。グリーンウォルドの顔を見るに、大体の結末は予想がついた。


「そろそろ説明を頼むぞ、グリーンウォルド」


 コース料理が出され、食が進んだ頃合いを見て、グリーンウォルドに話を促した。そしていよいよ今日の生徒会の顛末について説明が始まる。


 まず生徒会長トーリスが暫定執行部に労いの言葉をかけながら登場し、会長職の継承を口にした。その瞬間、執行部員が一斉に『生徒会執行部総会』開催を訴え、共同で開催の署名を提出。副会長代理で執行部総会の開催権を持つ代表幹事のエクスターナがこれを受理する。


 これに怒ったトーリスは無効!無効!と叫びながら、エクスターナが受け取った署名を取り上げ、それを見ると更にヒートアップして「首謀者は誰だ!出てこい!」と叫びまくったと言うのである。流石は安定のトーリス。俺の期待を裏切らない。


「署名を見たら代表者ぐらい分かるでしょ」


 分からないんだよなぁ、これが。レティの質問に俺が答えた。


「『傘連判』だ」


「『傘連判』って何だ?」


 アーサーが聞いてきたので【収納】で仕舞ってあった傘連判のモデルを取り出し、代表者がわからないようにするための署名方法だと説明しながら、みんなに見せた。


「トーリスは絶対に犯人探しをするの分かってたから、この署名方法で犯人を隠したんだ。あんな奴に目を付けられたら誰だって迷惑だろ」


 俺はグリーンウォルドが語ったトーリスの「無効!無効!」や「首謀者は誰だ!出てこい!」のという言葉をトーリス風のモノマネを駆使しながら、この『傘連判』の意味を語った。


「トーリス氏に似過ぎですよグレン!」


 クリスの従者トーマスがウケたのか大爆笑している。クリスとシャロンも手に口を押さえて笑っている。というか、グリーンウォルド、君も笑ってどうする。


「そんなに似てるんですか? 生徒会長さんと?」


「似てますよ、とても」


 アイリの疑問にシャロンが答えた。すると、それに被せるようにアーサーが口を開く。


「でも、この件の犯人って、話を聞いていたらどう考えてもグレンだろ」


「いやいやいやいや・・・・・」


「だってプランを立ててるの、他ならぬグレンじゃん」


 まぁ、アーサーの言わんとすることは理解はできる。理解はできるが、あやつをあの地位に座らせていてもロクな事にならんじゃないか。


「成り行き上、しょうがないじゃん。どうしようもない奴なんだし」


「どうしようもない生徒会長を躊躇なく嵌めたお前は凄いと思うよ」


 アーサーは一人感心している。そんなところを感心しないでくれ。


「ほら。嵌めたのね、グレン。やっぱりやることが違うわ! さすが悪党!」


 こら! 人聞きの悪いことを言うなレティ。レティの言葉に一斉に笑いが起こる。そこは笑う所じゃない。というか、クリス、君も笑うか、これ。


「いやいやいや。俺はみんなの為にやったんだ。何悪党認定してるんだ、レティ」


「ごめんごめん。流石、悪知恵が働くと思ってね。コレット続けて」


 全然悪いと思ってないがな、レティ。俺がそんな事を思っている間にグリーンウォルドは話を進めた。発狂するトーリスに対し、エクスターナが手続きに則ったものであるから不受理は不可能と説明。署名が有効である事を告げ『生徒会執行部総会』の開催を表明。署名に書かれている開催事由である「トーリス会長の弾劾」事案の決をとった。


 結果、執行部員全員が挙手をしたので、進行役のエクスターナが賛成多数で弾劾が可決され、トーリス会長の解任が決定しましたと宣言。何故だ何故だ何故だ、と喚くトーリスを尻目に、エクスターナは「弾劾成立によって生徒会会則に基づき、会長代行が会長職に就任することになりました」と説明。万来の拍手の中、総会が終わった。


「ちょっと待ってください」


 グリーンウォルドの説明を聞いていたクルトが声を上げた。


「あの、どうして会長が解任されたことで、会長代行がいきなり会長になれるのですか?」


「確かに何の手続きもないのに・・・・・」


「おかしいな」


 クルトの疑問にスクロードとアーサーが賛同した。グリーンウォルドが笑っている。


「はい。そこですよね。会則に『会長が解任された場合、会長代行職にある者が会長に選出されたとみなす・・・』と書かれていたのよ。それが適用されたの」


 笑いをこらえながら説明するグリーンウォルドの言葉に、一同「えええええ!」と驚きの声を上げた。


「アルフォードさんの案を先週の『生徒会執行部総会』提案して可決、了承を得ました」


「俗に言う『みなし・・・条項』ってヤツだ」


 グリーンウォルドの説明に俺はワインを口に含ませながフォローを入れる。


「しっかし、やることがヒドイわね」


「トーリスがか?」


「グレンよ!」


 ワインのせいもあるのだろうが、レティの返しがだんだん酷くなる。周りは笑っているが俺はたまったもんじゃない。何で俺を悪く言うんだ、レティは。


「先週、図書館で渡してきた紙はこれのことだったの?」


「ああ、そうだ」


 そんなレティの疑問に答えると、今度は隣のアイリが聞いてきた。


「どうして、そんな条項を入れなければいけなかったのですか?」


「空白を作らないためよ」


 アイリの疑問を間髪入れずにクリスが答える。


「さすがクリス」


「ク、クリ、クリス!?」


 アーサーが驚きの声を上げた。しまった、いつもの癖でつい出てしまったではないか。どうしよう・・・・・

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