第3話 再会

金曜日 学校終わり


高田市駅前駐輪場に自転車を止める。


「今日はどんな子が来るんだろなー?」


こいつは彼女が居るくせに何を言ってるんだ‥そんな事を思いながら夏千なちと並んで歩く。

夏千なちの彼女が通っている女子校は隣街『高田市』にありバス通学しているので、集まる時はいつも駅前近くになる。


ちょっと歩くと


「おっ!猫ちゃん!」


駐輪場出入口の物陰に1匹の猫を発見。思わず声を出してしまった。

俺は猫好きで一度家で飼おうとしたこともあった。

近寄り猫の頭を撫でてやる。


「ほんと一葵いつきは猫好きだよな」


俺の隣に夏千なちもしゃがみ猫の背中を指先で撫でた。

少し撫でていると猫は小さく『にゃー』と鳴きトコトコと歩いていってしまった。


「あ‥行っちゃった」


猫の背中を見届けた後、2人して立ち上がり集合場所に向かってまた歩き始めた。


駅前にあるロータリーの真ん中にある小さな公園が見えてくる。ここが集合場所。

公園が近づくと段々と心音が大きくなる。


「緊張してきた」


「はい、深呼吸深呼吸」


夏千なちが笑ってアドバイスしてきた。

言われた様に深呼吸をしていると夏千なちはますます笑った。


公園に入り自販機横のいつものベンチを見ると女の子が二人座っていた。

左に座っているのが霞春かすみ はる夏千なちの彼女。

女子校のブレザーを着ていて、ほんのり茶髪のロングヘアーにスラッとした体型で直ぐに分かった。

右に座ってる子が初めて会う子だが、楽しそうに喋っているので顔はよく見えない。


「おーい」


ちょっと離れた所から手を振りながら夏千なちが声を掛けると二人共こっちに振り返った。

夏千なちの彼女も手を振りかえしてくる。

二人の前に着くとはるが話し出した。


「紹介するね。私と同じ高校の‥


後に続くようにもう一人が話し出す。


玄野雪華くろの せつかです。雪華せつかって呼んでください。宜しくお願いします」

と一礼。


ちょっと硬い感じのする挨拶。

はると同じブレザーを着ていて、背格好も同じくらい。

はるは垢抜けている雰囲気に対して雪華せつかは艶のある綺麗な黒髪のショートヘアーで清楚な雰囲気がする。


「俺は草鳥夏千。夏千なちとかなつ好きな方で呼んで。雪華せつかちゃん宜しくねー」


夏千なちらしく軽い感じの挨拶。

流れ的に俺の番。緊張するな。


「どうも、天竹あまたけです。夏千なちと同じように名前で呼んでください」


視界の中の夏千なちはるがポカンとした後、笑い出した。


「いっちゃん名前言わないと!」


直ぐにはるにツッコまれる。

やってしまった‥


「あ、天竹あまたけ一葵いつきです」


右手人差し指でうなじをポリポリ掻いて、照れ隠し。

雪華せつかを見ると、ちょっとビックリしたような顔つき。

緊張しているのもあるがいつも以上に心臓がドキドキしている。何でだろう‥変な感じがする。


「一、葵、君?」

雪華せつかが確認する様にゆっくりと名前を呼んできた。


「はい」

なんとなく返事をする。


「先日はありがとうございます。本屋さんでのことなんですが覚えてませんか?」


本屋さん‥?

ちょっと考えている間、横で夏千なちがなになに知り合いなのーとか言っている。

雪華せつかは思い浮かべるような仕草で説明を始めた。


「えーっと、表紙が黒色の漫画‥」


「あっ!」

思い出した!

【白と黒】を譲った時に男の子と一緒に居た女の人。

男の子の顔は覚えていたが、あの時は恥ずかしくて雪華せつかの方はあまり見ていなかった。

なので気付くのが遅れた。


「あー思い出してくれました?」

嬉しそうにする雪華せつか


「あの時、男の子と一緒に居た人」


「そうそう、あの時はありがとうございます。すっごく守優しゅうも喜んでて。あっ守優しゅうは弟の事です」

テンション高めで話す雪華せつか


良かった。

あの時は恥ずかしさに負けて、そそくさと帰ったから気不味さに襲われたが雪華は気にしていない感じだ。


「どこも売り切れで諦めかけてたので余計嬉しかったんですよ」


そう、後で調べて知ったのだが『白と黒』は口コミで話題となり人気が出ていたみたいだが、今回の発売時に発行部数はいつもと変わらなかった為品薄状態になっているのだ。

そうとも知らず発売日だけしか気にしていなかった俺。

朝のんびりした事を後悔している。


「でも、大丈夫でした?一葵いつき君は買えました?」


「ばっちり買えたよ」

満面の笑みを見せる。

小さなプライドだ。


「あの‥お二人さん」

夏千なちの低く暗い声。はるも後に続く。


「私達を忘れないで」

オーバーアクションで夏千なちはるが肩を落とす。


「ごめーんはるちゃん」

雪華せつかはるに抱き、そのまま二人でキャッキャと騒いでる。


「ごめーん夏千なちちゃん」

真似して夏千なちに抱きつと、直ぐに笑いながら夏千なちにどつかれた。


「じゃー行きますか」

元気よく号令を掛ける夏千なち

しかし、何するか俺は聞いていない。


「何処に?」


「決まってるじゃん、カラオケだよ。カ、ラ、オ、ケ」


いやいやいつ決まったんだよと思った時。


「賛成ー」

雪華せつかはるが楽しそうに言った。


今決まったのね‥でも

「俺、音痴なんだよ大丈夫?」


夏千なちはるは俺が音痴な事は知っている。

しかし、雪華せつかは知らない。

場を白けさせるかもしれない。


夏千なちが肩を組んできた。

「音痴なんて気にするなって。ストレス発散なんだから楽しければオッケー」


「そうだよー気にしないの。ねー」

はるも援護してきて、雪華せつかに確認する。


「私も気にしないよ」

雪華せつかも相槌を打つ。


「と言う事で、行きましょう」

夏千なちは肩を組んだ状態で駅前にあるカラオケ店の方を指差した。

それに従うように雪華せつかはるが歩き出した。


もうNOを言える状態じゃないな。

渋々諦めて夏千なちと一緒に歩き出した。







前方を歩く雪華せつかはる

ちょっと離れて俺と夏千なちがついて歩く。

すると、夏千なちが小さな声で話しかけてきた。


「どうした?今日全然緊張してないじゃん」


確かに。

初めはいつも以上に緊張してた筈なのに今はそんなに緊張してない。


「んーなんでだろ。今んとこ話しやすそうな感じはする」


「良いじゃん、良いじゃん」

嬉しそうに笑顔で頷く夏千なち

いつの間にか前を歩いていた二人とは距離が空いていた。


「なーに二人でコソコソ話してのー?早く行こうよ」

はるが振り返り俺たちを急かす。


「分かってるよ。今行く」

夏千なちが応えて、俺たちは追い付くため走った。

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