第2話 日常

月曜日 朝6時45分

一葵いつきはスマホの、アラームで目が覚める。

週初め今日からまた学校が始まる。


休日の【白と黒】探し、書店で譲った後他に3軒ほど探しに行ったが見つからなかった。

男の子の笑顔が思い浮かぶが、若干の後悔が出てくる。


「まぁ仕方が無いよな‥」


自分に言い聞かせる様に、小さく呟いた後身支度を始めた。



リビングに入ると父親はテーブルで朝食を食べている。

母親は弁当の準備をしていた。


「おはよ」


欠伸をしながら挨拶をする。


「おはよう」


父親、母親共に挨拶を返してくる。

いつもの日常、いつもの風景。


椅子に座った時にテレビで流れているニュースが耳に入ってきた。


『‥続きまして昨夜23時18分に発生した地震のニュースです。地震の規模を示すマグニチュードは3.6で‥‥』



「へぇー地震があったんだ。全然気が付かなかった」


今日の朝食はご飯と味噌汁。

トースト派の俺としては微妙だな。


「この辺りは震度2だからまぁ、大抵の人は気付かないだろうな。しかし父さんは気が付いたぞ」


父親のどうでもいい自慢話。

いつもの様に聞き流す。

父親は朝食を食べ終えると、スーツを着て鞄を持ち母親の方に向かう。


「美味しい朝食をありがとう。行ってきます」


「今日も頑張ってね。行ってらっしゃい」


二人は軽く抱き合いキスをした。

いつもの事だが、俺はついつい言ってしまう。


「毎朝息子の前でイチャつくのやめてくれよ。見てるこっちが恥ずかしくなるわ」



父親は毎朝出勤前に母親とキスをしていく。

元々熱血気質な所があった父親だが今程ではなかった。

変わったキッカケは俺が小学3年生の時だ。

母親は持病を持っているので度々体調を崩す事があったが、一度だけ大きく体調を崩して1ヶ月程入院した時に、言い方が悪いが父親の性格も悪化して変わってしまった。


父親がこっちに振り返る。

「何を言っているんだ、一葵いつき。人の思いってのは口に出して言ったり、行動に移さないと相手に伝わらないぞ」


熱く語る父親


「そりゃーそうだけど‥」

イチャイチャするなって言ったつもりなんだけど‥



父親は止まらない

一葵いつきも、もういい歳だから好きな女性や彼女が出来るだろう。愛する女性が出来たなら父さんの様に気持ちをしっかり言葉で伝えて、行動で示すように。‥‥いや違うな、心の底から愛する女性が出来たなら、全てを捨ててでも女性を守る男になれ!そんな男なら父さんも誇らしく思う」



ドン引きし過ぎて言葉も出ない。

朝から何言ってんだか‥


隣で母親はクスクス笑っていた。



「あっ。でもストーカーには、なるなよ」

父親は捨て台詞を残して、そのまま玄関を出て出勤して行った。


「母さんからも言って辞めさせてくれよ」

不貞腐れるよう言った。


「何で?いいじゃないあれで。何も言ってくれない男の人なんてつまらないじゃない。それに何事にもポジティブで前向きに考えられるって良いことでしょ。お母さんはお父さんのその前向きな性格に何度も助けられたんだから」


そんな事を言いながら母親は洗濯の為リビングから出て行った。


俺も小さい頃父親のポジティブな性格に影響を受けていた時期があった。

その頃は前向きに何にでも挑戦出来ていたし、周りの友達に自分の考えを熱く語っていた。

ただ、その分馬鹿にされる事も度々あり嫌な思いをする事もあったことを思い出す。


父さんはそんな経験していないのだろか‥そんな事を考えながら朝食を食べ終え、学校へと向かった。




♦︎




工業高校 教室

午前最後の授業の終業のチャイムが鳴り響く。


「今日やった所はテストで出るのでしっかり復習しておくように」


先生が出て行くと静かだった教室内が賑やかになる。

昼食の時間だ。


自分の席で弁当を取り出し、スマホをいじりながら友達を待つ。

10分程するといつもの声が聞こえた。


「よし、カレーパンGET出来たぜ」


彼の名前は草鳥夏千くさどり なち

小学校から同じ学校で今では同じ建設科で授業を受けている。


夏千なちは前の席の椅子の向きを変えて、向かい合わせに座る。


「良かったじゃん」

何回か売店のカレーパンを食べた事があるが確かに美味い。人気があるから直ぐに売り切れるみたいだ。

俺は弁当の蓋を開けて昼食を食べ始める。

夏千も買ってきたパンを5つ机に並べ食べ始める。


しかし、夏千なちはよく食べる。


「いつも思うけど、そんなに食べるなら弁当の量を増やしてもらったら?」


夏千なちも弁当を持ってきているがいつも早弁をしていて昼休みには無くなっている。

凄く食べるくせに細マッチョなのが不思議。

しかも身長も高い為羨ましい。


「これ以上量増やしたら母ちゃんに怒られるわ。そう言えば漫画は買えたのか?」


「ダメだった。高田市の一番大きな書店に始めに行っけど、まぁ色々あって買えずにその後も他に回ったけど無かった」


「へぇ‥」


夏千なちは何かを考え込んでいるのか、少し間を開けた後続けて話しだした。


「ところで一葵いつき君、今週の金曜日の件ですが‥」


急にかしこまった言い方、なのに顔はニヤけるのを我慢している様な表情をしている。

嫌な予感がする。


「3人で遊ぶ予定でしたが、恒例の一人追加となりました。はい、拍手」


一人でパチパチと拍手をする夏千なち

やっぱり予感が当たった‥


元々、俺、夏千なち夏千なちの彼女の3人で遊ぶ予定だった金曜日の予定。

あがり症の俺だが、夏千なちがよく遊びに誘ってくれるので夏千なちの彼女とは仲良くなり今では普通に接することが出来る。

そんな夏千なちの彼女は時々急に女友達を誘って連れてくる。

あがり症の俺としてはうまく喋れず場の雰囲気を壊している感じがするし、何よりそんなに楽しめない。


俺は右手人差し指でうなじをポリポリ掻いた。

「うん‥分かった」


「なんだよー。もっと嬉しそうにしろよー」

冗談の不貞腐れた表情をする夏千なち


「嬉しいんだけど、素直に喜べない自分が居るって言うのかなんて言うか‥」

微妙で曖昧な返事をしても、夏千なちはいつもの笑顔で言葉を返してくる。


「あがり症の事なんてそんな気にするなって、リラックスして自然体で居れば大丈夫大丈夫」


簡単にいってくれる‥

それが出来たら苦労しないよ‥

そんな事を思いながら、いつものように渋々遊ぶ約束をした。

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