タイムカプセル

三浦航

タイムカプセル

「じゃあみんなで土をかけましょう。」

先生が声をかけるや否や生徒が一斉に土をかけ始める。埋めたものは個人の思い出の物と、未来の自分への手紙。成人式の後掘り起こすそうだ。

「8年後かぁ。」

僕は将来の自分を思い浮かべながら、後悔する。

「なんであんなもの入れちゃったんだろ。」

僕が手紙として入れたのは、いわゆるラブレターというものだ。

「成人式が楽しみだね。なに埋めたの?」

同じクラスの陽菜が声をかけてきた。手には卒業証書の筒がある。

 僕は陽菜と同じ中学に通えるのが楽しみだよ、なんて歯の浮くような言葉が出かかったが、何とか飲み込んで、みんなと変わらないよ、とごまかした。


 それから幾許か経ったある日の夜、俺はタイムカプセルを埋めた裏庭にいた。当時より大人に近づいた今、ラブレターのことが恥ずかしくなって掘り起こそうと決めた。

「確かこの辺に…。」

タイムカプセルを埋めた日のことが昨日のことのように思い出される。なんで俺あんなこと書いたんだろ、なんて恥ずかしがりながらラブレターを回収した。


「おはよう。」

翌日、コンビニの前で久しぶりの陽菜を見つけ声をかける。久しぶりだからか緊張する。

「奏斗君、久しぶり、おはよう。」

「どう、俺の格好。」

「そんな変わらないね。」

「変わってるよ、だいぶ大人になった。」

自信ありげに少し大きめのサイズの服を強調する。

「変わらないよ。あれ、自分のこと俺って言ってたっけ。」

「それも大人に近づいたからかな。ところで今日の午後空いてる?」

緊張を隠すため自信があるように装いながら言う。

「夕方からなら空いてるけど、どうしたの?」

「最近会えてなかったからさ、話がしたくて。」

半分嘘でもう半分は本当だ。

「じゃあ5時に小学生の頃よく行ってた山の上の公園で。」

陽菜の提案に心が躍った。


 約束の5時より少し前、俺たちは公園で会った。最初はとりとめもない話をしていたのだが、意を決して伝える。

「俺、前から陽菜のことが好きだった。うまいことは言えないけど、俺と付き合ってほしい。」

心臓の音がうるさいくらいに聞こえる。

「え、ちょっと待って、びっくり。」

少し考えて陽菜が言った。

「条件があります。」

陽菜のことばに、俺の心臓の負荷が一向に減らない。

「俺、じゃなくて前みたいに僕、にして。その方が優しい奏斗君でいてくれる気がするから。」

俺は快諾する。重い荷物を持ったり、長時間人の話を聞いたりした今日の疲れが吹き飛んだ。僕はこれから毎日が幸せだ。やっと心臓が落ち着き始めた。


 帰り道、陽菜のヘルメットに反射する太陽が眩しかったからか、僕は横で自転車をこぐ彼女の方を向けずに帰宅した。明日からみんなに冷やかされるだろうが、僕は幸せそうに笑って過ごせるだろう。

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タイムカプセル 三浦航 @loy267

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