屋上

 六時間目、いつもなら日本史の授業中。

 私は、屋上の扉の前にいた。周りから見れば【サボり】ということになる。

 だけど私はどうしても、この先で待っているかもしれない人に会いたかった。会って、顔を見て....しっかり話そうと思った。


 私はゆっくりとノブを回す。

 扉が開いて、広い場所に出る。顔を上げると小さく見える人の姿。


 ・・・・いた。


 私が会いたくてしかたのなかった人、私の大好きな人....。

 胸がドキドキと、波打っているのが分かる。ゆっくり前に進みたいのに自分の足は、私の考えている倍くらいの速さでずんずん前へ進んでいく....。気づいた頃には、私は青木くんの真後ろに立っていた。


 今青木くんは、どんな顔をしているんだろう。

 怒った顔、悲しい顔.....それとも、あの時と同じように優しい顔をしているんだろうか。でもそれは、青木くんがこちらを向かなければ何も分からない。


 私は大きく、息を吸う。


「青木くん.....?」

 大きく息を吸ったわりに、私から出た声はとてもとても小さかった。

 でも....それでも、さっきまで私と反対方向を向いていた身体はゆっくり私と向かい合った。


「何してんの、授業は?」

 向かい合ったあとすぐに、こんなことを聞かれる。私が『サボった』と言ったら、青木くんは『何してんの...』って困ったような顔をした。

 二人の間に、少しの沈黙が流れる。


「今日の昼休み、なんで来なかったんだよ。」

 いつもより低い声でそう聞かれる。


「それは.....。」


 言えない、絶対に。こんな子供みたいな理由で、距離をとっていただなんて。今思えばとてつもなく恥ずかしい。


「俺のこと、もう嫌いになった?」

 青木くんの悲しそうな声。さっきまで向かい合っていた身体がまた反対方向に向いて、背中だけしか見えなくなる。

 私は少し前に進んで、青木くんの隣りに並んだ。青木くんの顔は、空の方に向いていた。

 上を向いて空を眺めている青木くんは、とても悲しそうな目をしていた。


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