第3話 It'sサイエンスタイム
「それじゃあ、私達は準備しておくから、ジンはディスタを呼びに行ってくれる?」
「はい、分かりました」
「…一応言っておくけど、くれぐれも、変なことはしないようにね」
「だからさっきのは誤解ですよ! ドルチェ様に乗っかっただけですから!」
「…いや、ジンがいきなり脱ぎだ」
「行ってきます!」
俺は二人と別れ、急いでディスタ様のいる地下の研究所へと向かった。
城の端っこに設置された扉を開くと、地下へと続く階段が現れる。左右に等間隔で明かりが設置されていて、まるでファンタジーに出てくるダンジョンのようだ。
階段を降りた先にはこれまた扉があり、『ここから先、危険』と書かれたネームプレートが掛けられている。
俺は息を吐くと、気合を入れて扉を開け、中に入った。
…ここには何回も来てるけど、やっぱり凄いな。
広さはそれほどだが、隙間なく研究器具が置かれ、地面にはよくわからない文字が殴り書きで書かれた書類が散乱している。
何となく一枚拾って読んでみるが、うん、全く分からん。
俺はその書類を適当な机の上に置き、キョロキョロと見回す。
いた。白衣を着た誰かが、黒板に一生懸命何かを書いている。
俺は器具に当たらないように気をつけながら近づいていき、声をかける。
「ディスタ様、おはようございます」
その人は俺の声に気づいたのかピタッと動きを止め、ゆっくりと振り返る。
「…おお! 誰かと思えばジンじゃないか! おはよう! いい天気だね!」
小さな体に不釣り合いの大きい白衣を着た、金髪のこの方は、ディスタ・フュース・スターライト様。5人姉妹の末っ子で、天才科学者だ。この地下の研究所で、毎日新しい何かを研究している。何やら凄いことをやっている、という事は分かるが、詳しくは全然分からん。
「おはようございます。いつも通りの真っ暗のいい天気ですよ。それで、今回は何をしてるんですか?」
俺は黒板に書かれている数式を見る。
「うん、これかい? これはね、タイムトラベルを可能にする数式だよ! まだもうちょっと詰める箇所もあるけど、もう9割は完成していると言っていいね!」
ディスタお嬢様はとんでもないものを研究しているらしい。
「じゃあ、この液体は何ですか?」
俺は近くに置いてある、フラスコに入っている紫色の液体を指差す。
「これは肉体の限界を超えた力を一時的に引き出す代わりに、効果が切れると全身にとんでもない痛みが走るドーピング剤だね。美味しそうだからって勝手に飲んじゃダメだよ?」
「飲むわけないじゃないですか。じゃあ、この書類は? よく分からない文字や数式みたいなものが書いてますけど」
ディスタ様は俺が渡した書類を見ると、何かを思い出したような顔をした。
「ああ、こんな所にあったのか。これは僕の完全な分身を作ろうとした時の研究結果だね。意外と難しくてね、辞めちゃったんだ! 機会があればまた挑戦したいなぁ」
楽しそうに書類を眺めるディスタ様を見て、俺は改めて思う。
「なんと言うか、やっぱり凄いですね、ディスタ様は」
俺がそう言うと、ディスタ様は嬉しそうな笑顔を浮かべ、腰に手を当てて胸を張った。
「まあ、僕は天才だからね! こんな研究が出来るのは、世界でも僕くらいだろうね!」
ディスタ様は自慢げにそう言うと、俺の方をチラチラと見る。
……なるほど。
「流石です、ディスタ様! やっぱり天才ですね。そこらのやつとは次元が違いますよ!」
俺はディスタ様の頭を撫でながら褒め倒す。
「そうかいそうかい! もっと言っても良いんだよ!」
「もっとですか!?……もう才能がとまんねぇよ! 怖い! 僕この人が怖い!」
ワシワシと頭を撫で倒しながら、ふと不敬なことを思ってしまう。
やっぱりディスタ様は年の離れた妹みたいで可愛いな。
俺より断然年上だけど。
「フフン! やっぱりジンは分かってるね! …そういえば、今日はどうしたんだい? 何か用事でも?」
ディスタ様にそう聞かれ、俺は本来の目的を思い出した。
「ああ、そうですそうです。ディスタ様、お茶会の時間になりました。一緒に行きましょ?」
「そうか、もうそんな時間か。本当はね、やりたいことが沢山あるけど、たまには顔を出さないとマリーに怒られるからね」
「マリー様、怒ったら怖いですもんね」
「そうなんだよ! 前もさ、ちょっと僕が研究に没頭して一週間くらい研究室から出なかっただけで、たまには外に出なさい、とか運動しないと体が鈍るわよ、とか言ってきてさ! もう参っちゃうよ!」
「それは大変ですね。俺もついさっき、ドルチェ様を布団から出すために仕方なく裸になったっていうのにお仕置きされたんですよ。酷くないですか? 俺はドルチェ様の為にやったのに!」
「それはジンが悪いね」
「……そうですか。まあそんな事はいいんですよ。そろそろ行きましょう。マリー様に怒られます」
「そうだね。……ねえ、ジン? 今日はちゃんと行くから、その、いつものやつ……、いいかい?」
ディスタ様は少し恥ずかしそうにしながら、俺の首筋を見る。
全く、今からお茶会だって言うのに。
「……はい、どうぞ。これが終わったらすぐに行きますよ? もう怒られたくないんで」
俺は渋々、血を吸いやすいように首を傾け、ディスタ様が吸いやすい様に膝を地面につくようにしてしゃがみ込む。
それを見たディスタ様の目は、血に染まったかのように真っ赤になり、ワナワナと手を震わせながら近づき……。
「じゃあ、いくよ……? んっ」
俺の首に牙を差し込んだ。
「……んっ……んっ」
俺は吸いやすいように、ディスタ様を抱っこするような感じで支えながら、食事が終わるのを待つ。
……早くしないとまたマリー様に怒られるな。
「……ぷはっ、ありがとう! これで元気出たよ! やっぱりジンの血は格別だね!」
一分ほどの食事を終えたディスタ様は、口から俺の血を少し垂らしつつ、俺に満面の笑みを向ける。
確かに本人の本人の言う通り、顔色がさっきとはまるで違う。
「それは良かったです、じゃあ、そろそろ行きましょうか。いよいよマリー様に怒られそうなんで」
「その時は僕がジンを守ってあげるよ」
細い腕に力を込めながら、そんな事を言ってくれるディスタ様。
「それは安心ですね。ありがとうございます」
「その代わり、はい!」
ディスタ様は右手の手のひらを俺に向けて出してくる。
……ああ、なるほど。
「よし! じゃあ、行きましょう!」
「おー!」
俺たちは手をつないで、階段を上がっていった。
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