第9話 沖縄の守護神

「ギエエエ! いっでぇー!」



 レーザービーム送球を捕ったキャッチャーが顔をゆがめる。ミットを取れば、手が真っ赤に腫れている。



「すみません! 次から手加減して投げますさぁ」



 いつの間にか、外野から強肩の男が駆けつけていた。日焼けした黒肌に彫りの深い顔立ちだ。



椎座しいざかぁ。お前、ピッチャーの方が向いてねぇか?」


「でも、僕のボール、誰も捕ってくれなかったんでさぁ」


椎座しいざ! 今日からピッチャーだ! 浦間うらま、捕ってくれ」


「あいよぉー」



 小野沢おのざわ監督の命によって、椎座しいざがマウンドに立つ。ぎこちないモーションだが、ストレートが風を切って浦間うらまのミットへ入る。



桃野ももの君より速いんじゃなーい。受け甲斐あるぅー」



「そっ、そうなのか。恐縮さぁ」



 椎座しいざは照れてお尻をポリポリかく。



椎座しいざはシーザーに変身できたよな。シーザー化して投げなさい」



「あっ、はい。フンヌゥ!」



 椎座しいざが全身に力をこめると、金色の獣毛があちこちに生える。パグに似た犬の顔になる。口から牙が出て、金色の瞳がにらみを利かす。



「いっちょー投げてやるさぁ」



 シーザー化した椎座しいざが投げると、あまりにもストレートが速いので、グラウンドの土が舞い、浦間うらまの腹にぶち当たった。



「ブハッ! うう、貴重な血が……」



 浦間うらまの口から血が垂れる。血が大好きな吸血鬼の彼女に捕って、自らの血を出すことは屈辱的だ。



「うーん。浦間うらまでも捕れないなら、短いイニングの起用かな」



 かくして、先発投手は桃野ももの鉄平てっぺい、リリーフ投手は椎座しいざ尚也なおやになった。



 2人の豪速球投手と怪力の強打者、安打製造機のキャッチャーがいる希望きぼう学園。甲子園出場は確実と思われたが――。



(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る