第8話 アヌビスは比較厨

 ラーメス・ツルオリはエジプト出身の選手で、状況に応じたバッティングが出来る。練習試合では、浦間うらまの次に高い打率を誇っていた。



「なぁ、どうしてそんな打てるんだよ。同じイヌ科のよしみ、教えてくれや」



 桃野ももの栄治えいじが、スパイクを黙々と磨くツルオリに声をかける。ツルオリは口を鼻を伸ばして、黒のジャッカル獣人に変わった。



「ボールの重さ、わかる」



 ツルオリは鼻をヒクヒク動かしながら答える。



「それって、軽いボールや重いボールがわかるってこと?」


「イエス。軽いボール、ホームラン。重いボール、シングルヒット」



 にわかに信じがたい桃野ももの兄は、弟をバッティングピッチャーにして、ツルオリと対戦させてみる。



 人間時の桃野ももの弟のボールは軽く、ツルオリは外野へ飛ばしまくる。



「ツルオリが、お前のボールがチワワみたいやって」


「何やと? クソがぁ、アオ―ン!」



 オオカミ化した桃野ももの弟のボールは重い。ツルオリはダウンスイングで内野手の間を抜けるヒットを打つ。たまに外野へ飛ばすが、フライアウトになる。



「ほう。ボールの球質に合わせてスイングを変えるか」



 小野沢おのざわ監督はツルオリの器用なバッティングを目の当たりにして、再び頭の中で打順を組み替えている。



「うかうかしてたら、レギュラーヤバイな」


「もっとバット振らんと」



 怪物1年生たちの入部で、元からいた部員達もやる気が上がっている。いい相乗そうじょう効果だ。



「あとはもう1人いいピッチャーがいれば――」



 ツルオリの打球を捕った外野手から、レーザービームの送球がかえってきた。



(続く)

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