第5話 ジャガーマンはフェンス際の魔術師

 ピッチャーとキャッチャーはもちろん、内野の守りの要のセカンドとショート、守備範囲の広いセンターは、野球における大事なポジションセンターラインである。



 そのセンターに抜擢ばってきされたのは、花咲はなさきナスカである。彼は日本とペルーのハーフで、浅黒い肌とくりくりした黒い瞳が目立つ。



 野球部員の50m走のタイムを計る際に、彼は黒い斑点が目立つ黄色いネコ科獣人に変身した。



「うひょー。ヒョウ獣人かー」


「いや、チーター獣人じゃね?」


「失礼だナ! 僕はジャガーだナ、ジャガー!」



 ジャガーの豹柄斑点は、丸い輪の中に黒い点がある。ヒョウが丸い輪、チーターが黒い点なので、斑点の模様で見分けよう。



 ネコ科大型獣はスラッとした体型が多いが、ジャガーは手足が短くてずんぐりむっくりした印象である。花咲はなさきもその特徴を持ち、ラグビー部員風のがっちりした体型である。



「スタート!」



 花咲はなさきの両隣の先輩はスタートダッシュに成功する。花咲はなさきは息苦しそうに2人を追いかけたが、その差は縮まらなかった。



「佐藤と鈴木は6秒7、花咲はなさきは7秒1」


「あれれ。足速そうなのに」


「見かけ倒しかよー」



 花咲はなさきは不敵な笑みを浮かべたまま、肩で息をしている。



 守備練習の時間になると、花咲はなさきがセンターを守った。



「クソッ。何であいつがセンターなんだよ」



 ノッカー(※注)の佐藤さとうは、いまだに花咲はなさきにセンターのポジションを奪われたことを納得していない。



「センター!」



 彼のノック打球は、外野のフェンスを越えそうだ。



「すまん。飛ばし――」



 花咲はなさきがフェンスをスルスルとよじ登り、ホームラン性の打球をもぎ捕った。他の部員は彼に拍手を送る。



「拍手されるほどのモンじゃないナ!」



 彼はジャガーのひげをこすりながら、地面に降りた。彼は本物のジャガー同様に、木登りと水泳が得意なのだ。



 さらに、打撃練習では、多くの選手が苦手な内角高めインハイ外角低めアウトローのコースを打っていた。どれもライナー性の打球で、ヒットを量産しそうだ。



「1番センター花咲はなさき、2番ファースト桃野ももの兄、3番ピッチャー桃野弟、4番ライト金藤こんどう、5番キャッチャー浦間うらまか」



 小野沢おのざわ監督の頭の中で、最強のオーダーが出来つつあった。



(続く)



※注 守備練習時に、守ってる選手に向かって打つ人のこと。ドアを叩く人じゃありません。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る