最悪の誕生日

@mayumiu

第1話

つらい。電車の中。帰り道、今日は泣きすぎて、目や鼻の周りは苦しい。誕生日祝いの大好きな寿司は胃を気持ち悪くしてるし、美味しいはずの高野フルーツのケーキはもうどこかへ溶けて消えてしまったようだ。あぁ。寿司もケーキも食べるのを楽しみにして、なんとか家へ帰ったのに。寿司は噛まなくてはいけないから、泣きながら食べるには息苦しくて、食べにくいものに感じた。ケーキはこの点素晴らしいと思った。泣きじゃくっていても、しっかりと噛む必要もなく、フルーツとクリームの優しい甘さが心と胃を満たしていく。ケーキはカロリーが高いから宣伝するのは控えていたけれど、これからはあなたの持つ優しさをもっと大切にして宣伝していくね。



なぜ誕生日に泣きじゃくる羽目になったのか。話は少し厄介だ。最近、私は実家に帰れなくなってしまった。それまですごく好きで、社会人になってからも、一人暮らしをしたり、実家から通ったりと、好きに暮らしていたように、実家は私にとって居心地の良いところで、高校、大学時代は家で本を読んだり、ドラマを見たりと自分にとって心地の良い場所として好んできた。なのに、最近は実家に帰ると涙が落ちて、止まらない。ひどいと、行く前の道すがらから涙が落ちてきて、帰り道の電車や帰り道でも止まらない。実家からの連絡がスイッチなのか、悲しくなると落ちてきて、してるマスクで涙を拭いても拭いても出てくるし、鼻水もタオルが吸いきれないくらいの量なのだ。こんなに泣いたのは祖父母が亡くなった時ぶりで、しかも今回のはいつどこで落ちてくるかもわからない制御の仕様のないもので、扱いにひどく困っている。電車を待つホームで私が泣いていることに気づいた人がじろじろと見てきたらすることもあるが、幸い、マスクをしているのでそういう人は少ない。人目につかないように下を向いて、人混みを避けて東京の自宅まで帰れば安心なのだ。



最近は安らぎ、これを大切だと思っている。話していて、安心して話せる、安心して話してくれる。こういった関係性がなによりもかけがえのないものだ。よく感じる、この人にはどう接したらいいか分からないだとか、この人にはこの話はしたらだめだとか、馬鹿にされたような、からかわれたような、不快な気分になることを言う人とは表面的に接すればいい。逆に、安らぎを与えてくれようとする人には、素直な気持ちで歩み寄って、微笑み、口を開いて、いつもありがとうと伝えたい。それほど、深い感謝の気持ちを感じている人がいる。これだけでも、私にとっては宝物ではないか。


その人はいつも、私の所まで歩み寄ってきて、話そうとする。私の隣の席の人が仕事仲間だというせいもあるが、一日に二、三回はそばに来ていて、話す機会を作っている。お客様のこと、仕事のこと、音楽のこと。共通点はあって、お互い分かっている。話しかけられたら話せるけど、ただそこにいるだけではどうしたら分からない。歩み寄ってくれるのに口を聞かないのでは、私が悪いと反省して、輪を作って話を一緒に聞くことにした。ぺこり、お疲れ様ですの挨拶。音楽の話ができるのは貴重だと思う。モーツァルトk265きらきら星がピアノで弾きたい曲だけど、連弾したい。年老いて永遠の別れが訪れる頃、ピアノの音色で送りたい。これが私の夢だ。



きっとその人はそのようなことは考えていないだろう。朝の挨拶はすごく元気だし、にこにこしていて調子が良いとさらに偉そうにしている。その反面私は暗いし、笑わないし、最近では人との会話時間も短い。年度の仕事がほぼ終わった1月では元気な声はもう必要ない気がしていて、サービス精神から声を出したりもしない。嫌な気持ちが少しでもしたら無理せず理由とともに丁寧に断る。断らないで無理を押して流そうとした結果がさんざんなことになっている。断らないでいることに疲れてしまったんだ。一番大切だと思うのは安らぎ。安心して話せる、話してくれる。だれがそうしてくれるのか、私にはもうわかっている。自分を大切にしてくれる人を一番大切にして、生きていきたい。それが自分の中で決めたことだ。

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