第一部 エピローグ

 銀河たちが出てくると、生贄いけにえ隊は大変な騒ぎになった。

「レム!銀河!それに —— 何とこの子たちまで!!」

 支配人が大きく両腕を広げてみんなを抱き寄せた。口々に叫びがわき上る。

「銀河万歳!」「アリス万歳!」「レム万歳!」「みんな万歳ぁ~い!!!」

「おぉ!これが熊神か!!何と途方もない怪物じゃ!」

 山羊ひげさんが目を白黒させている。口裂けお姉さんは感動で泣きそうだ。

「まあ、ロボットさんが傷だらけだわ!それに銀河君もそんなに大きなたんこぶを作って!鼻血だらけじゃないの。きっと血みどろの戦いだったのね!」

 誤解だが、どこに目があるのかよくわからないぬっぺらぼうなので、さっきはよく見えていなかったのだろう。言わぬが花だ。

 少し落ち着くと、案の定、みんなはもっと詳しい話を聞きたがった。

「それで戦いはどんなだったかね?」

 支配人がたずねてきたが、銀河は真面目な顔で一同の騒ぎを抑えた。

「レムもこの子たちも、想像を絶する恐怖を体験したので、熊神のことに触れると口がきけなくなってしまうようです。心の傷が癒えるまで、もう、この話はやめてやって下さい」

 アリス3号が付け加える。

「クマガミハタイジシタカラ、イケニエヤチュウセンカイハコレデハイシシヨウ」

 そもそも、こんな小さな子供たちがどんな罪で監獄かんごくに入れられなければならなかったのだろう。

 支配人がうながした。

「では、早く帰ってみんなを驚かせてやろう。この子たちの無事を知ったら親たちがどんなに喜ぶだろう」

 大人たちが三人がかりで戦利品のナムジー熊をかつぎあげ、一行は意気揚々と凱旋して行った。

 記念品のバスタオルと、もちろん、点滴掛けも忘れずに。


 岩棚には凧が二機、来た時のまま残っていた。

「レムと我々が二人一組で先に向うへ渡って、ひとりずつ降ろしてまた君たちを迎えに来よう。問題はアリスくんだが … 」

「平気です」

 銀河が答えた。

「分解して運びます」

「イヤダ!」

 アリス3号は後退あとずさると、崖肌にぴたっと張り付いた。

「ジュウニサイノショウジョヲカイタイスルキカ」

 銀河は無視して、支配人につぶやいた。

「こいつだけここに残して、あとでポチに運んでもらいましょう」

 風が来るまでにはまだ少し時間がある。待っている間、銀河は支配人にたずねてみた。

預言者よげんしゃはまた来るんでしょうか?」

「来るだろう。ぼちぼち来る頃だ」

「やっつけてしまえばいいのに … 」

 言ってもむだなのはわかっているが、少しは抵抗して欲しい。

「君たちがうらやましい。チュラ人はやさし過ぎるんだ。なのに戦争をしようなんて、みなあやつられて頭がどうかなっているとしか思えない」

「戦争?」

「おや」

 支配人がうれしそうに突然立ち上って言った。

「風のにおいだ。木霊こだまが歌いはじめたのがわかるかね」


                               (第一部 終)

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