第6話
駅前にて
時間近くなった夜斗は、駅前ロータリーにあるベンチで休んでいた
公衆電話ボックスの中であたふたしている少女を見つけたが、男が親しげに話しかけているのを見て、カップルだろうとあたりをつける
「夜斗?」
「む、唯利。暇そうだな」
「夜斗こそ」
声をかけてきたのは唯利だ
夜斗は弥生を待つためにここに来たが、唯利もなのだろうかと思い問いかける
「人待ち。時間的にはちょうどいいはずだけど」
「ふーん。電話かけてみればいいんじゃね?」
「それもそっか」
唯利が電話をかけ始めるのとほぼ同時、夜斗の携帯電話が鳴動した
表示を見ると、弥生という文字が記載されている
「おう」
「『え…?』」
夜斗は電話とリアルで聞こえた声に違和感を感じ、唯利に目を向ける
「弥生…?」
「う、うん。睦月…?」
「お、おう…。わりと、身近にいたんだな」
「そ、そうだね」
戸惑いを隠せない二人
完全に想定外であり、夜斗もエイラに頼んで調べることはしなかった
そのため、双方驚いているのだ
「唯利が弥生…。あのテンションの高さは…」
「好かれやすい空気を作ってた。あれがいいかはわからないけど。逆に、夜斗は睦月のときテンション低すぎる」
「好かれにくいようにしてたからな。昔結構面倒に巻き込まれて」
「……どうする?どこか、いく?」
「行きたい場所があったんじゃないのか?」
「え、と…その…」
「なんだよ。付き合ってやるぞ」
「夜斗を、監視しようと…」
「……え?」
「昨日言ったでしょ。よく話す人が、ハーレムだって」
「…え?ハーレム?俺が」
「金曜日、十人くらいで帰ってた」
「…ああ。いつもの3人と、妹の友達たちだな。妹は人気者だから、友達多いんだよ。まぁなんか妹の友人が家に来たりしたけど」
「…付き合うの?」
「そういう関係ではねぇよ」
2人はとりあえず喫茶店に行くことにした
全面ガラス窓になっているカウンター席から、外を眺めながら夜斗はココアを、唯利はコーヒーを飲む
「…ほんとに苦いものだめなんだ」
「ああ。どうしても苦いもんは苦手なんだ」
夜斗は唯利のコーヒーを勝手に少し飲んだ。しかしすぐに、顔が歪んだ
「飲めたもんじゃないわ」
「無理しなければいいのに…」
何故か二人とも間接的なキスであることに突っ込まない
それどころか夜斗のココアを唯利も飲みだした
どちらもストローなのだが、気にする様子もなく普通にストローで飲んでいる
「夜斗」
「どうした」
「デート、しない?今から」
「デート…?デートってどんな」
「ちょっと行きたいところがあるの。けど、カップル限定で割引があって…」
「どこだよ」
「ヴィヴィの1階にあるクレープ屋。カップル割引で2個買うと1個の値段になるの」
ヴィヴィはよく駅ビルに間違われる建物だ
駅から徒歩1分程度の距離にあるのだが、映画館やゲームセンター、コンビニや飲食店もあるという建設当時としては画期的なものだった
しかし今は、駅からかなり離れるとはいえより広大なショッピングモールがある
「いいぞ。ココアを飲み終わってからな」
「ありがと。あと、証明のために手を繋がなきゃいけないし、たまにキスしろって言われる…らしい」
「ファーストキスを大事にするつもりなら、キスを要求された時点で辞退だな。俺は別にいいけど」
「夜斗なら、いっかなって」
「決まりだな」
軽々と決まる予定。しかし
(夜斗とキスできる可能性大…。運良くタイミングが合えば…!)
(唯利とキス、か。中々いい妄想だ。俺は唯利を好きなのかもしれないな)
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