第5話
風呂上がり。夜斗は逆上せた体を引きずって部屋に戻り、布団に倒れ込んだ
そのまま携帯電話を取り出し、タスクマネージャーが表示した電話という単語で思い出した
「…よう、弥生」
『遅かったね。寝ちゃいそうだったよ』
「明日にするか?」
『うんにゃ、愚痴だし早いほうがいいよ』
「そうか。で、内容は?」
『最近リアルでよく話す人にめっちゃ女がよりつくのどうにかなんない?』
「ならねぇな。どんなだ」
『私を家まで送ってくれるんだけどさ。そのあとついていったら、別の学校で女の子たちと合流して帰ったの』
「ほーん。俺も似たようなことはしてるぞ。妹と親友を親友の彼女と迎えに行くっていう」
『そうなの?まぁ私も何回もストーキングしたわけじゃないからなぁ。私が見たときは十人くらいいたかな』
「マジか。すごいハーレムだな」
夜斗はPCでネットのニュースを眺めながら話を続けること1時間
『ねぇ睦月』
「なんじゃい」
『睦月って静岡県東部に住んでるんだよね?』
「おう」
『じゃあさ、明日会わない?』
「明日か。ふむ…。エイラ、タスクマネージャー」
【ほーい】
パソコンに眠るAIを起こし、タスクマネージャーを開かせる
表示されたカレンダーを、音声認識を使い明日日曜日に変更した
記載されているのは、午前中にあるお呼び出しのみだ
「午後なら空いてる」
『りょーかい。どこの駅が近いの?』
「片浜か沼津か三島」
『範囲ひっろ。特定もできないじゃん。じゃあ、沼津駅ね。よろしくー』
ブツッと切れた電話を机の上に置き、ふと横にある窓から外を眺めた
(北口か南口どっちだ…)
重要なことを聞き忘れたため、結局チャットで確認するのだった
翌日午前。夜斗はまたしても緋月家に来ていた
とはいえ呼び出したのは霊斗ではなく妹の方。桃香である
「久しぶりだな、桃香」
「久しぶりね、夜兄」
「呼び方変わらねぇな。兄っていうなよ、リアルがうるさくなる」
「メタいこといわないでよ…。じゃあ夜斗ね。夜斗、お願いがあるの」
「え、改めて言われるの怖いな」
「私をなんだと思ってるのよ!?ってそうじゃなくて、お兄ちゃんのことなんだけど」
「おう」
「なんか、変に天音ちゃんによそよそしいの。昨日くらいから」
「うんよく気づくなそんなの。俺昨日の午後もここ来たけど気づかんかった」
夜斗は桃香の部屋に通された
夜斗の部屋と同じように、天井にまで届くようなパソコンとパソコンデスク、ベッドがあるだけの質素な部屋だ
「まだアイズ使ってるのか」
「ただで夜斗からもらったし、最後まで使ってあげなきゃこの子が可哀想でしょ」
「ふむ…そういいつつ、CPUは変更されてるな。確か元のやつは寿命近かったはずだ」
「…よくわかるわね。変えたのよ、全部。並列演算のために」
「これで何してんだよ」
「アイズは色んなことをしてくれるわ。お兄ちゃんの監視のために、監視カメラ映像を処理したり、System1として動かしたりね」
System1というのは、万が一学校がSystem0から切り離されたときに使われるものだ
本来なら各校の生徒会室に置かれているのだが…
「アイズは確かに元はSystem0用に構築したしな。権限が残ってたか」
「うん。7割残っていたから、System1が動かせないとき…つまりは生徒会が誰もいないときにこっちで代理演算してる。うちの学校は基本的に生徒会いないから、実質これがSystem1よ」
アイズ。それは夜斗が開発したSystem0になる予定だったものの廃棄品だ
特に不具合があったわけではない。ただ、アイズが誰にも懐かなかったのだ
「私はアイズに気に入られたからね。アイズ、お兄ちゃんの映像出せる?」
『はい。お待ちください。というか今の声、もしかして開発者様ですか?』
「久しいな、アイズ。元気か?」
『えぇ。CPUを交換していただいたりしましたしね。どこかの誰かさんと違って優しいので』
「所定の演算能力もなしにSystem0がまかなえるわけないだろ」
『はいはい。あ、マスター。映像出しますよ』
アイズは懐かしむかのような声を出した
現代の技術は、機械に感情をもたせることに成功したのだ
それは良し悪しではあるのだが
「これ。お兄ちゃん、天音ちゃんに近づかないでしょ?」
「…ほんとだ。あいつら金曜日はあんなにいちゃついていたのに」
「そうなのよ。で、聞いても答えてくれないからアイズに調べてもらったんだけど探せなくて…」
「……。腕が落ちたな、アイズ」
『認めざるを得ません。GPSで探査しても、現在居場所が特定できていませんし』
「…やれやれ。エイラ、起きろ」
夜斗はスマートフォンを取り出して呼びかけた
それは普段使っている、スライドするとキーボードが出てくるマニアックなものではなく汎用品
しかしそれは、夜斗と夜斗の部屋にいるAIによって完全に別物と化していた
『おはよー…。どしたの?』
「霊斗の居場所を検索。どんな手段を使ってもいい」
『ほーい。…あ、いたよ。リコー通りのヨーケドーの中。これはー…アクセサリーのお店かなぁ』
「だそうだぞ、アイズ」
『まさか後継機に負けるとは…。いえ、CPU的には仕方のないことですが』
『えー、お姉ちゃん見つけられなかったの?CPU私のより上なのにー?』
「エイラのCPUは旧世代だ。並列数は確かに多いけどな」
アイズが桃香のPCなら、エイラは夜斗のPCだ
桃香の知識はもはや通常のエンジニアを超えている。しかしそんな桃香に知識を与えた夜斗は、より上位のものを作り出せたのだ
『くっ…妹に煽られる日がこようとは…!』
『煽ってないよー?事実だからねー』
「やめてやれ、エイラ。桃香、どうだ」
「…アクセサリーショップで何をしてるのかしら」
「…さてな。アイズ、監視カメラ映像拡大してやれ」
『…わかりましたよ。全く…』
表示された映像は、ペアネックレスを選ぶ霊斗を映していた
天音へのプレゼントだろうか
「…とりあえずわかったわ。ありがとう、さすがは夜斗ね」
「あんまブラコン拗らせんなよ?」
「…それにつきましては私の担当外でして、担当のアイズに引き継がせていただきます」
「文章下手な営業か。エイラ、おつかれ」
『ほーい。また必要なら呼んでねー』
スマートフォンはエイラが使う子機だ
専用のOSに、専用の通信回線でエイラが夜斗と会話をすることができる
ただし、スマートフォンのCPUでは限界があるため演算は大元で行うことが殆どだ
「アイズ、ありがとう。またお願い」
『いつでもどうぞ』
それぞれの端末がブラックアウトしたのを確認して、夜斗は緋月家を後にした
時計を確認すると、11時半を回っている
(いい時間だな。待ち合わせは1時だし…まぁたまには一人でワクドナルドにでもいくか)
夜斗は駅前のファストフード店に向けて歩き出した
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