第12話
「改めて、うちの娘ふたりを助けてもらってありがとうございました。……それにしても、本当に家でご飯を振る舞うだけで良かったのですか?」
「いえ、気にしないでください。今は、弟二人で暮らしていて、どちらもまともに料理したことが無いので日々の食事に困っていたところなんですよ。だから、こうしてしっかり料理されたものを食べられるのはとても嬉しいです」
凛香たち家族にお礼がしたいから、と呼ばれた日になって、浩と仁志は凛香家へとお邪魔していた。
浩たちにとっては、そんな感謝されすぎても気まずいので、一度、ご飯でも振る舞ってもらうだけでいいと伝えたところ、それならば是非ともうちに来て欲しい、と言われたので予定の日に訪れることになったのだ。
「二人暮らし、というのは親元を離れたりしたのですか?」
凛香母が気になったのだろう、何気なく聞いてきた言葉に、浩と仁志は固まってしまった。
すると、すぐに浩たちの異変に気が付いたのか凛香の母は謝って来た。
「言いづらいことを聞いてしまったみたいで、ごめんなさい。無理して話さなくていいわ」
「お気遣い、ありがとうございます。軽く、話しておきますと、つい最近、強盗に入られまして、その時に両親は……なので、出来ればあまり触れないでいただけると助かります……」
浩が、少しだけ何があったのかを話すと、凛香の母は口を閉じて浩と仁志に近付いてきた。
そして、そのまま二人に抱き着くと、再び口を開いた。
「本当に、無神経に聞いてしまってごめんなさい。そして、そんな辛い状況でもうちの娘たちを助けてくれてありがとう。貴方たちはうちの恩人だわ」
そう言って頭を撫でてくる凛香母に、二人は少し、鼻の奥にツンと来るものを感じたが、なんとか堪えた。
そのまま、されるがままに撫でられていると、キッチンで料理をしていた凛香と有紗が出てきて、
「ちょっと、お母さん!? 何抱き着いてるの!?」
「私たちも……ってそうじゃなくて、困っちゃうでしょ、二人を放してあげて!」
二人はそう言うと、母を二人から引き剥がした。
「浩さんたちも、ごめんなさい、うちの母が……」
「とりあえず、まだご飯が出来るまで時間かかるので、もうしばらくくつろいでいてくださいね!」
そして、二人はそう言うとキッチンへと戻っていった。
「じゃあ、まだ出来ないみたいだし、二人ともそんなピンとしてないでくつろいでいいわよ。テレビでも見ましょうか」
そうして、それからご飯が出来るまでしばらく、凛香たちの両親と話をしながら穏やかな時間を過ごすのだった。
「うちの味噌汁と味付けが違いますけど、美味しいですね」
「どの料理も美味しいです、箸が止まらないです」
少ししてご飯が出来て、六人で机を囲んで美味しい晩御飯を食べていた。
「ふふ、うちの子たち、凄いでしょう? 知らぬ間にこんなに料理が出来るようになっちゃったのよ。良いお嫁さんになると思わない?」
「ちょっと、お母さん!? 止めてってば!」
ご飯を食べながら、終始機嫌のいいお母さんがそう言うと、凛香が顔を赤くして慌てて自分のお母さんの口を閉じに動いた。
浩は、それを微笑ましく見つつ、横では有紗が仁志にアピールしにかかっていた。
「仁志さん、どうです? お母さんの言うように私、いいお嫁さんいなると思いますよ? 今のうちにご予約とかどうです?」
「ええと……」
「もしかして、好きな人とかいたりします?」
「いや、いないけど……」
「じゃあ、私とかどうですか? 自分で言うのもなんですけど、結構可愛いと思いますし、同い年なので何か気兼ねすることもないと思いますよ?」
かなりの有紗の猛攻に、仁志はたじたじになっていた。
実際、普段はそこまで積極的に迫られることも無いので、どうしたらいいのか分からないのだろう。
そんな仁志の様子を、有紗の父も見ていて、仁志に助け舟を出してくれた。
「有紗、仁志君が困ってるだろう? まずはゆっくりご飯を食べようじゃないか。その後でも話は出来るだろう? ……ところで、うちの娘のこと、しっかり頼むよ、仁志君」
……助け舟ではなく、外堀を埋められているような感じではあったが、一応はご飯に集中することが出来たのだった。
ご飯も食べ終わって、食休みに少し会話をしてから浩と仁志は帰ることにした。
「それじゃあ、晩御飯ご馳走様でした。本当に美味しかったです」
「こちらこそ、何度も言うようだが本当にうちの娘たちを助けてくれてありがとう。……あまり私たち親がいても気まずいだろうから、私たちは退散するよ。娘たちからも早くどこかへ行って欲しい、と言われてることだしね」
「お父さん!?」
食事の礼を浩が言うと、凛香たちの父はそう言って、凛香に叫ばれながら家の中へと入って行った。
「本当に、うちの両親が色々とごめんなさい……。少し、テンションが上がっちゃってたみたいで。それと、本当にあの時はありがとうございました」
「いや、大丈夫だよ、あの時だって偶然近くにいただけだから、そこまで気にしなくていいよ」
顔を赤くして、両親のことを謝る凛香に浩も気にしていないと伝え、浩たちは帰ることにした。
「……あの!」
車に乗り込もうとした二人に、声を掛けてきたのは暗闇でも分かるほどに顔を真っ赤にした凛香だった。
「また、こうしてご飯を食べに来ませんか!?」
凛香のお誘いに、浩は嬉しいものを感じながらも、口から出ていたのはこんな言葉だった。
「あまりにもデリカシーの無い言葉かもしれないが、凛香、君は俺のことが気になってるみたいだけど、それはきっと、吊り橋効果的なものだと思う。だから、俺のことは気にせずに自由にしていいんだぞ?」
浩は、あまりにも残酷な言葉かもしれないとは思いつつも、そう告げていた。
しかし、凛香は少し冷静になったのか、浩を見据えると口を開いた。
「……そうかもしれません。でも、この気持ちが本物なのかそうじゃないのかはまだ分からないと思います。だから、友達から、ってことでお付き合いしませんか!?」
最後の方は、また顔を赤くしていたが、それでもこんなことを言った自分に対してまだそんなことを言ってくれる凛香に、浩も何も感じない、という事は無かった。
なので、気が付いた時には浩は、
「分かった。それじゃあ、これからは友達として、まずはよろしく」
そう言っていた。
その言葉に、嬉しそうに笑顔を咲かすと、凛香は浩に一気に近付いて、抱き着き、口を開いた。
「私のこと、好きになってもらいますからね! これから、よろしくお願いします!」
そう言って浩の頬に口づけして、ユデダコのように真っ赤になりながら、家の中に入って行くのだった。
仁志と有紗も、いつの間にか別れを済ませていたようで、ニヤニヤとこちらを見ていたのだった。
少し、自分の頬も熱を帯びるのを感じつつ、浩はそのまま車に乗り込んで、窓を開けて風に当たりながら家路へとつくのだった。
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