第10話 

 手を染めることを決心した浩たちだったが、実際の所、そこまで頻繁に殺してやろうと思えるような相手に出会えることも無く、ただ平凡な日々を過ごしていた。

 そんなある日、浩のもとに一通の連絡が届いた。


〈私は貴方のした事を知っています。バラされたくなければ、明後日の23時に、駅前の公園の多目的トイレに来て下さい。〉


 明らかに捨てアドレスと分かるような、文字の羅列になっているアドレスからの唐突なメールに、浩と仁志は顔を突き合わせて話していた。


「……どう思う?いきなり、しかもどこから俺のメアドを知ったのか知らないけど、この文章的にきっとアイツらのことだと思うけど」


「あの時、確かに誰もいないことも確認したよな?隠しカメラとかも見つからなかったし。なんでバレたんだ?」


「分からない、けど行くしか無いだろうな……。今バラされたら、何も出来ずに捕まってしまうだろうし」


 とりあえず、二人の結論としては行くしかない、ということになった。



 それから二日間、二人は少し落ち着かないような気持ちのまま過ごして、約束の日、約束の時間になった。

 二人は予定の時間の少し前に家を出ると、指定されていた場所まで足を運んだ。

 時間の数分前に公園に到着すると、早速指定されていたトイレへと向かって歩いていった。

 指定されていた多目的トイレには、電気も点いておらず、鍵もかかっていなかったのでそのまま入ると、自動で電気が点く仕組みなのかパッと明るくなった。

 少し、時間には早かったからか中には誰もいなかったが、手持ち無沙汰な二人が少し視線を飛ばしていると、角の方に何か、紙が落ちているのを見つけた。

 その紙には文字が書いてあり、二人で覗き込むと、「来てくれてありがとう。改めて、このまで来てくれ」と書いてあり、その文の下にはそこまで離れていない地点の住所が書かれていた。

 呼び出しておいてまた移動か、と少し不満に思ったものの、とりあえず移動するしかないと二人は動き始めた。




 そして、ようやく指示された場所へとついた二人の目の前にいたのは、天狗の仮面をかぶった、体形から察するに、一人の女性だった。

 不気味な相手を目の前に、警戒を隠すことも無く浩たちが立っていると、女は口を開いた。


「来てくれて嬉しいわ、結城浩くん、そして仁志くん」


「……あんたは誰だ? それに、何で俺たちの名前を知っている? 俺の連絡先をどうやって手に入れた? ……何故、知っている?」


 浩は、女が会話をする姿勢を見せるとすぐに気になっていたことを聞き始めた。

 女は軽く笑うと、浩の質問に答え始めた。


「そんなに急いで聞かなくても、ちゃんと話すわよ。けど、そうね、質問に答える前に自己紹介をしましょうか。私は情報屋、カラスと呼ばれているわ。是非、二人もそう呼んで頂戴。そして、何故君たちのことを知っているのか、の答えは今私が言ったように私が情報屋だから。そして、今は君達に興味を持ったから、調べさせてもらったわ」


 カラスと名乗った女はそこで一度言葉を切り浩たちの顔を順に見つめると再び話し始めた。


「だから、私は君達に何があったのか、何をしたのか、そして何をしようとしているのかを知っている」


 その言葉は、浩たちにとって死刑宣告のように感じられた。

 二人が身体を緊張させて動けなくなっていると、カラスは笑い始めた。


「……フフフ、そんな緊張しなくていいわよ、もし警察に突き出すのなら、こうして話すことも無く警察に話しているのだから。私が君たちを呼び出したのは、私が君たちに力を貸してあげようかと思ったのよ」


 そして、話し始めたことに二人はまた固まってしまった。

 そんな二人を見て、カラスは詳しく説明をし始めた。


「さっきも言ったけれど、私は情報屋をしているの。そして、副業という訳じゃないけれどその情報を元にあまり大きい声では言えないようなこともしているの。けれど、私だけじゃどうしても手が回らないことがあるでしょう? 中には、あいつを殺して欲しい、とか言った依頼も来るのよ。そんな時に実行してくれる相手がいると助かると思ってたのだけれど、そんなときに君たちのことを知って声を掛けることにしたの。だから、私の仕事を手伝ってもらう代わりに、君たちが標的にしたいだろう相手を私が見つけてあげる。今のままでは殺す相手がいなくて困っていたのでしょう? 悪い話じゃないと思うのだけれど」


 カラスの言葉を聞き、浩と仁志は考え始めた。

 確かに、今のままでは折角決意したものの相手が見つけられずに何も出来ないと考えていたところだったのだ。

 それに、カラスの手伝いもどの程度の頻度であるのかは分からないが、殺して欲しいと依頼が来るような相手はろくでもない人間ばかりだろう、それなら手伝ってもいいのではないかと考えた。

 そこまで考えてふと仁志の方を確認すると、仁志は浩をじっと見つめていて、その目は覚悟の決まったような光を帯びていた。

 それを見て浩も決心し、カラスへと向き直った。


「貴女の言うように、確かにいい話だと思います。これから、よろしくお願いします」


 それまでは見知らぬ、警戒する相手だったが、覚悟を決めた今となっては仕事仲間となる相手なのだ、礼儀を払うべきだと言葉を改めて浩はそう言い、頭を下げた。

 カラスはそれを見ると満足そうにし、口を開いた。


「そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ、詳しく話をしたいし、私の事務所に行こうか、ここからそう離れていないことだしね。ああ、それと口調はそのままでいいよ、これからは仲間なんだから」


 機嫌よさそうにそういうカラスに、浩たちはそのままついて行くのだった。

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