第8話

 家族の復讐を終えた浩と仁志は、そのまま自宅へとまっすぐ帰った。

 そして、家に到着して部屋に戻ると着替える余裕もなくすぐに眠りについてしまった。


 翌朝、いや、もう昼と行ってもいいような時間になって起き出してきた浩と仁志は、リビングで何をするでもなく、何か話すわけでもなくただ椅子に座り込んでいた。

 復讐が終わって、何をしたらいいのか分からなくなってしまっていたのだ。


「っ!」


 そんな時だった、浩のスマホに電話がかかってきたのは。

 ディスプレイに表示されているかけて来た相手を確認すると、妹たちを預かっている美佐子からだった。

 浩は確認してからすぐにスマホを手に取り、電話に出た。


「もしもし」


『あ、浩くん。どう? 落ち込まずにいるかしら?』


「ああ、はい、とりあえずは大丈夫そうです。美佐子さんや、夏那達こそ大丈夫ですか?」


『そう、そのことでちょうど電話かけたのよ。夏那ちゃんたち、昨日まではふさぎ込んでてあんまりお話も出来なかったんだけど、今日になってようやく少しは話せるようになったみたいなの。それで、浩くんたちのことを気にしてたから、よかったら少し話にこないかな、と思って』


「っ! 本当ですか! 良かった……。分かりました、この後そっちに向かってもいいですか?」


「ええ、もちろん。待ってるわね」


 美佐子との電話を切り、浩は仁志へと向き直った。


「仁志、今から夏那達の様子を見に行くぞ、準備しろ」


 浩がそう言うと、少しは会話を聞いていたのかすぐに動き出して、電話があってから十分もしないうちに二人は車へと乗り込んでいた。





 車に乗って少しすると、美佐子の住むマンションが見えて来た。

 そのまま近くのコインパーキングに停めると、二人は車から降りてマンションのインターフォンを押した。

 少しすると、中からバタバタと足音が聞こえて、ドアが開かれた。


「二人とも早かったのね。さあ、入って」


 二人は美佐子に促されるまま部屋に上がり、靴を脱いでリビングへと入った。


「二人とも、緑茶でいい?」


 リビングに入ると美佐子が既に湯呑を用意していて、浩と仁志は椅子に座って緑茶を飲んだ。


「それで、夏那たちはどうですか? 落ち着いてきましたか?」


 一息ついてすぐ、浩は気になっていたことを美佐子に尋ねた。

 美佐子も聞かれると分かっていたのか、一度頷くと、すぐに話し始めた。


「あれからずっと、気分も落ち込んでたみたいでお医者さんとも、私ともなかなか話を出来なかったんだけど、昨日ようやく私には話しかけてくれるようになったの。だから、家族の浩くんたちなら大丈夫かな、と思って。浩くんたちも心配だったでしょうし」


「そう……ですか。美佐子さん、ほんとにありがとうございます」


「いいえ、私も心配だし、それに何かしてた方が気が紛れるから……」


「……そうですよね」


 美佐子にとっても家族が死んでしまったのだ、それもよほど自分たちよりも長い時間を過ごしてきた兄弟なのだから、思うところはあるのだろうと思って、浩と仁志はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 三人で少し落ち込み、静かになっていたが、そのことに美佐子も気が付きすぐに口を開いた。


「二人ともごめんね、暗くしちゃって。それで、夏那ちゃんたちに会って見ない? 二人にもちゃんと大丈夫か聞いてあるから。あの子たちも浩くんたちのこと気にしてたし」


「そうですね、俺たちも気になってたんで、話したいです」


「うん、それじゃあこっちに来てくれる?」


 何とか話を変えようとしたのか夏那達の顔を見に行くことになった。

 その事自体は浩たちも歓迎していたので、夏那たちのいるだろう部屋へと向かっていく美佐子に着いて行くのだった。





「夏那ちゃん、愛奈ちゃん、浩くんたちが来たわよ。入っても大丈夫?」


 部屋の前で、美佐子がノックして中にいる夏那達に話しかけた。

 美佐子が声を掛けてからすぐに、中から声がして、入っても大丈夫と言われたので、美佐子が開けた扉から浩と仁志は部屋に入った。


「夏那、愛奈……」


 部屋の中には、以前とはまったく違った様子の二人がいた。

 以前は、いつも元気な様子で、もっと肌にも張りがあったのに、今の夏那たちは依然と比べて痩せこけていて、あまり眠れていないのか目元には大きく隈の後、そして涙の跡が残っていた。


 夏那たちも何を話したらいいのか分からないのか、口を開いては閉じてを繰り返していた。


 仁志も何を言うのか悩んだようで、何かを言おうとして諦めて、一歩、夏那たちの方へと近づこうとした。

 すると、夏那たちもその動きに気が付いたようで、一瞬、身体が強張っていた。

 仁志も夏那たちの変化に気が付き、そう反応されて傷ついたのか更にもう一歩近づこうとすると、夏那たちは自然と身体を震わせ始めてしまった。


 そこまで見て、浩は仁志の肩を掴んで止めると、夏那達に向けて口を開いた。


「夏那、愛奈、すまん。まだ男に近付かれるのは怖かったよな……。とりあえず、無事な姿が見れて良かったよ。今日はとりあえずもう帰るから、また大丈夫になったら、兄弟で話でもしような」


 浩はそう言うと、半ば逃げるように仁志を連れて部屋から出てしまった。

 部屋から出る際、夏那たちが何か口を開こうとしているようにも見えたが、あまり長い時間同じ部屋に居るのも悪いと思い、そのまま部屋から出ていくのだった。




「ごめんなさいね、やっぱりまだダメだったみたい……」


「いえ、美佐子さんが気にすることじゃないですよ。……夏那と愛奈のこと、しばらくお願いします」


 部屋から出てすぐ、浩と仁志は美佐子の家から出ていくことにしていた。

 玄関で靴を履いている時に美佐子にそう声を掛けられたが、誰が悪いという事も無いのは分かっていたので、何か言えるようなことも無く、そのまま夏那たちのことを美佐子に任せて美佐子の家から出ていくのだった。

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