第7話

「……あ、兄貴? 作戦成功、いまは目の前でぐっすり寝てる。……うん、たぶん大丈夫、けど出来るだけ早めに来て、店は分かるよね? ……うん、うん、それじゃあまた後で」


 目の前でぐっすりと眠っている恭介たちを冷めた目で見降ろしながら、仁奈子、女装していた仁志は浩に電話をしていた。

 浩との電話を終えると、席に備え付けられていたベルを鳴らして店員を呼び、先に会計を済ませることにした。


 仁志が先に会計を済ませて、帰る準備を整えていたところで、浩から連絡が入った。


 どうやら車で到着して、もう店の前に待機しているらしいので、一度浩を呼びに行って恭介たちを運び出すことにした。


「よっと……重いな、仁志、そっちは任せていいか?」


「うん、何とか行けそう。とりあえず車に運び込めばいい?」


「ああ、その後は車の中で話すけど、起きる前にさっさと乗せてしまおう」


 そう言ってさっさと恭介を担いで店から出ていく浩の後ろを、仁志も隆一に肩を貸すような形でついて行った。



 車に二人を連れ込むと、浩と仁志は恭介たちの腕、足、口、目をガムテープで拘束し、その上から麻縄で動けないように縛ってから前の座席に乗り込んだ。


「……それじゃあ、動くからシートベルトしてくれ」


 それから二人は車を走らせて、恭介たちの住んでいる家へと向かった。

 恭介たちは二人で住んでいるようで、他には家の中に人の気配を感じたことも無く、周りもあまり人の住んでいなさそうな環境だと判断して、私刑を行うのは彼らの家で行うことにしたのだ。


 数十分ほど車を走らせて目的地へと到着すると、兄弟は恭介たちの荷物をまさぐり、家の鍵を取り出して家の中へと侵入した。

 そして恭介たちを担ぐと、家の中で、広くなっていたリビングへと二人を転がした。

 まだしっかりと薬が効いているのか、起きる様子も無かったので一度二人を放置して、仁志は女装から着替えに車へと荷物を取りに行った。




 家に入ってから数時間が経った頃、ようやく恭介たちに動きがみられ始めた。

 その様子を確認した仁志は、交代で仮眠を取りに行っていた浩を起こし、恭介たちが目を覚ますのを待った。


「んぅ……っ!? んー! んんー!?」


 数分後、ようやく目が覚めて現在の自分の状態を把握出来たらしい恭介と隆一が拘束されたまま暴れ始めた。

 そのまま暴れさせたままにしておくのは騒がしいと判断して、浩は黙らせるために恭介たちの元へと近づいていき、床に寝転がった状態の二人の腹を思い切り蹴りぬいた。


「んぐぅっ!? ぐぅおぇっ、ごほっ」


 二人はいきなりの衝撃に身を丸くしながら咳き込んでいたが、騒いでいた声はなくなったと判断して浩が二人に声を掛け始めた。


「また騒いだら蹴る。余計なことを話し始めたり大声を出しても蹴る。こちらの言葉に反応しなくても蹴る。言うとおりにしなくても蹴る。分かったら声を出さずに首を上下に動かせ」


 浩がそう言うと、二人は震えながら何度も首を上下させた。

 それを確認すると、浩は恭介の、仁志は隆一の口元のガムテープを外し始めた。


 ガムテープを外し終えて、浩が立ち上がると同時に恭介が口を開いた。


「誰だ! こんなことしていいと思っべっ! げほっ!」


「言っただろ、勝手に騒いだら蹴る、と。今、お前たちの生殺与奪を握っているのは俺たちだ、分かったら大人しくしてろ」


 浩がそう言うとようやく大人しくなったので、浩と仁志は二人の中では既に確信に近いことではあるが質問をし始めた。


「去年の大晦日、お前らはある家に忍び込んで二人を殺害、その場にいた二人の姉妹を強姦した。あっているか?」


「……した」


「何か理由があったか? 恨みがあったとか」


「無い。姉妹を見てヤリたいと思ったから侵入して、別に人がいたから、まずいと思って殺した」


「……これまでにどれだけの女の子を犯してきた」


「……いちいちそんなこと覚えてない。けど、結構やった」


 ここまで聞き出すだけでも、二人はかなり渋ってはいたが、何度も蹴っているうちに正直に話すようになった結果、ここまでのことが分かった。

 浩と仁志は、家族を自分たちの家族を壊したことさえ知れればよかったので、他のことは正直なところどうでもよかったが、聞いているうちに同じ男として嫌悪感を抱いていた。





 ※残酷な描写注意、苦手な人は横線部分まで飛ばしてください。






 聞くことはもう無いと判断した浩と仁志は二人の目を覆っていたガムテープをはがした。

 二人はいきなり明るくなって視界が順応するのに少しの時間を要したようだったが、目が慣れてきて浩たちの姿を見て、息をのんだ。

 浩と仁志は二人とも手に包丁を握って、殺意の籠った目を向けていたからだった。

 しかし、ここで騒いでもすぐに何かされると既にすりこまれていた二人は騒ぐようなことは出来ず、包丁を凝視することしか出来なかった。


 そんな二人の様子など関係ないとでもいうように浩は恭介に近付くと、いきなり恭介の腕に包丁を切り付けた。

 一瞬、恭介は何をされたか気が付かなかったようだが、すぐに腕から伝わってくる温かさと痛み、そして浩の持っている包丁から滴る血を見て、自分が切られたと気が付いた。


「うわあああ!? 痛い! 痛いよ! いtガッ!?」


「うるさい」


 痛みから叫んでいた恭介だったが、叫んでいる途中で浩に首を思い切り抑えられて声を出せなくなった。


 喘ぐような音しか出せない状態で、更に無事な方の腕、脚などを何度も何度も切り付けた。

 その度に呻くような声を上げようとしていたが、首を抑えられていることで声とはならず、ヒューヒュー、といった、空気の抜けるような音が出るだけだった。

 少しずつ力が抜けていっているのを浩は感じて、とどめだ、と思い切り殺意を込めて首を抑えていた手をどけて首元へと包丁を力一杯突き刺した。


 それから少しの時間、何かを言いたそうな顔をしていたが、最期は恐怖に染まった表情で恭介は力尽きたのだった。

 仁志も同じように、痛めつけてから、今度は胸を一突きして隆一を殺したのだった。


「……終わったな」


「……そうだね。……少しは気が晴れるかと思ったけど、なんだか……空しいね」


 仁志の言葉に、浩は同じ気持ちではあったが反応せず、二人はそれから自分たちの荷物を回収すると車に乗りこみ、自分たちの家へと帰るのだった。

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