第5話

 兄弟が二人組を尾行してから、10分ほどが経った。

 微妙に遠くて、何を話しているのか聞こえにくく、もう少し近付いてみることにした。

 すると、何とか声を聞きとれる程度には距離が近付いたようで、二人の話し声が聞こえてきた。

 とはいっても、他愛もない話ばかりで、特に聞いていても意味のないことを話しているようだった。

 話を聞くのを一度諦めて、尾行できる限界まで一度離れようとした時、気になることを話し始めた。


「そういや、昨日のひっかき傷は大丈夫なんか? 抵抗が結構強くて血が出てたろ?」


「ああ、そうなんだよな、あの女。まあ、所詮ひっかき傷だし、大丈夫だろ。最悪、金も昨日ゲットしたんだし、病院位、いけるって」


「それもそうだな! んで、次はどんな子にしようか? 今回は年下の女だったし、次は年上の気の強そうな女を探そうぜ?」


「そりゃいいな、帰ったら作戦会議だな!」


 その話を聞いて、兄弟の頭の中は完全に煮えたぎっていた。


「兄貴、あんな屑、警察に突き出すのはもったいなくないか?」


「……そうだな。でも、今は耐えろ、こんな住宅地だと誰が見てるか分からないぞ」


 兄弟は、妹たちが何をされたのか、詳しくは聞いていなかったが、それでも今の二人組の会話で、大体のことは分かった。分かってしまった。

 そして、もう兄弟の頭の中には奴らを自分の手で殺してやりたい、という考えしかなかった。


 それからもう数分、二人組を追いかけていると、ようやく彼らの家についたのか、二人は一緒に家に入っていった。

 兄弟はその家を然りと頭の中に焼き付けて、車へと戻ることにした。


 それから、ラーメン屋に戻り、一言も話さずに食事をしてから二人は叔母の家へと帰っていった。





 それから数日は、警察に聴取を受けたり、葬式についてのことで忙しくしながら、眠れない日々を兄弟は過ごしていった。


 そして、葬式の日、兄は葬儀屋との対応、来てくれた親戚たちへの対応などで忙しなく動き、火葬まで終わらせた。

 葬式までの時間で、自宅の窓ガラスの修理をしてもらって、もう一度住める状態にしてあったので、その頃には、妹たちはまだ美佐子に預けたままだったが、兄弟は一緒にいても妹たちが落ち着けないという事で自宅に戻り、生活していた。


 家に戻り、両親の骨の入った骨壺を仏壇に置いて、そこまで一緒に来ていた親戚が返ってから、兄弟は限界を迎えて、部屋まで戻ることも出来ずに仏壇の前で意識を失ってしまった。


 翌日、兄弟はほとんど同じ時間に目が覚めて、顔を見合わせた。

 それだけで、互いの復讐に染まり切ったその目を見ただけで意思疎通を果たして、二人は準備をし始めた。

 殺すために必要なモノ、自分たちだとバレないための道具、ヒトに見つからないようにするための場所などを、用意したり、探し出したりと準備をして一週間がたったころには、全ての準備が完成していた。


「……」


 兄弟は、自分たちの目の前にあるモノを、二人して無言で眺めていた。

 数分の間、そうして沈黙していたが、ついに沈黙を破ったのは兄だった。


「俺はここでもう覚悟は決めてある。けど、お前はまだ大学もあるだろ? だから、俺一人でやってもいいんだぞ?」


「……そんなのどうでもいい。それよりも自分の手であいつらを殺さないと、俺はもうこれからずっと自分を許せなくなる。だから、一緒にやるよ」


「……そうか……分かった、じゃあ、行こう」


 最後の覚悟を済ませて、兄弟は荷物を車に詰め込んで動き始めた。


 それから兄弟が向かった場所は、二人組を見つけたラーメン屋に最寄りの駅前だった。

 駅だけでなく周りもそれなりに発展しているので、車を置いて置ける駐車場も近くにあり、またカフェや飲食店も多数あるので、兄弟も良く友人と来て時間を潰すのに使用する場所だった。


 そこで、付近の地下駐車場へと車を運び、身一つになって兄弟は町に出た。


「それじゃあ、あいつらが家から出てきたら連絡するから、見逃さないように、見つけたら声を掛けて行ってくれ」


 兄は、目の前にいる、何も知らずに見たら女の子にしか見えない弟にそう言った。

 兄弟は、それぞれが女装して奴らに引っかかったふりをして近付こうとしていたのだ。

 最初に近付く役目を負ったのは仁志で、浩よりは身長が低いことと、聞きようによっては女声に聞こえるような、中性的な声なことを利用してのことだった。


「兄貴も、バレないように気を付けなよ?」


「分かってる。仁志も気を付けろよ。この作戦はお前にかかってるんだから」


 兄弟はそう言うとそれぞれの場所へと向かっていった。

 仁志は近くにある、且つ奴らが通るであろう道に面した喫茶店の窓際の席へ、浩は奴らの家の付近へ行き、奴らが出てきたら仁志に知らせる準備をしたのだった。





「恭介、今日は何する? 最近、なかなかいい女いないし、今日は特に目的は決めずに探しに行かないか?」


「んー、そうだな、出来れば気の強そうな女を組み伏せたいけど、探すのもめんどくなってきたし、気晴らしに適当な女捕まえに行こう」


 金髪の男、恭介と茶髪の男、隆一は一緒に暮らしている一軒家の中でそんな話をし終わると、外に出かける準備をして扉を開けた。

 時刻は十五時、今から町へと出て、適当にナンパして連れ帰ってきたら大体二十二時ぐらいだろうか、と軽く予定を立てつつ町への道を進み始めた。


 しばらく雑談をしていると、町へと到着した。


「さてさて、今日はめぼしいのいるといいけどなぁ」


「んー、厳しいんじゃないか? 正直、この間の二人組見た後だと、ほとんど霞んで見えてくるだろ」


「はっは、違いない! ……もう一回ぐらいはヤリてぇけどなぁ」


「……気持ちは分かるけどよ、かなり具合良かったし。けど、流石に今近付くのは危険すぎるから、我慢しろって」


「わぁってるよ、まあ、しばらくは気に入りそうなの探すかぁ」


 少し前に獲物にした女の話で盛り上がりながら二人は町を歩いていると、背後から声を掛けられた。


「あの、すみません!」

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