第4話

「おはよう……早いのね」


「おはようございます、美佐子さん。眠れなかったんですけど、朝になったのでとりあえず動こうかと思って……」


「そう、やっぱり眠れなかったのね……私もあまり眠れなかったけれど」


 翌日、まだ日が昇り切らない時間に起き出して動いていた浩は、同じく動き出してきていた美佐子と話をしていた。


「今日はどうするのかしら?」


「ひとまず、警察のところに行かなきゃいけないので、仁志と一緒に行ってきます。その前に車を取りに行きたいので家に行こうかと思ってますけど」


「そう……そうね、しなきゃいけないこともたくさんあることだしね……」


「はい……それと、眠れなくて色々と調べてたんですが、この場合、俺が喪主になるみたいなので、葬式の手続きとかも話してこようかと思ってます。それで何ですけど、今日は妹たちの様子を見ててもらえませんか? もし出来たら話を聞いてあげて、必要そうなことして上げて欲しいと思うんです。たぶんまだ俺や仁志が近付いても落ち着いていられないと思うので……」


「そうね……分かったわ、二人のことは任せて。でも、二人も警察で話意に行った方がいいと思うんだけど、そこはどうするの?」


「それは……多分、まだゆっくり外に出たりとか出来ないと思うので、警察の人に来てもらえないか話してみます。美佐子さんの家の住所教えても大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫よ。それと、お父さんたちにも連絡しなきゃね、親戚への連絡は私がしておくから、安心してね」


「分かりました、ありがとうございます。……それじゃあ、仁志を連れて行ってきます、もし何かあったら連絡してください」


 あにはそう言って仁志を起こし、まだ朝の早い時間ではあるが、美佐子の家を出たのだった。



「それで、兄貴、俺は何をするの? 正直ついて来ても出来ることあんまりない気がするんだけど……」


「まあ、正直することは無いけど、家にいるよりは夏那達にとってもお前にとってもマシかな、と思ってな……まあ、もしかしたら俺が話してる時に連絡あったりするかもしれないから、その場合はお前に代わりに出ておいてもらいたいぐらいかな」


「分かった」


 二人はひとまず家を出てから自宅へと帰った。

 そこで、浩は貴重品等を回収しておこうと思っていた。


 自宅につくと、まだ警察がいて封鎖されていたので、近くにいた警官に話をしにいった。


「すみません、自分、ここの家の長男ですけど、中に入ってもいいですかね?」


「ええと、それを証明できるようなものってありますかね? 無関係の人間を入れるわけにはいかないので」


「そうですね……免許証でいいですか? 住民票はここの住所のままなんで、それでいですか?」


「はい、ちょっと確認させてもらいますね……はい、わかりました、大丈夫です。それで、本当はもう少し後で一緒に来て何か無くなったものや変わったものなどがあったら教えて欲しいと思ってたん出すが、ちょうど今いるので、そのまま協力してもらっても大丈夫ですかね?」


「分かりました。それが終わったら貴重品とか回収していってもいいですか?」


「そうですね……関係なさそうなモノだったら大丈夫ですよ。ただ、犯人の手がかりになりそうなものがあったらそれはお借りすることになるので、すぐにお渡しすることは出来ませんが……」


 それからは、昼過ぎまで浩と仁志は警察と一緒にいて、話をしたり家の中を探したりとして時間が過ぎていった。


「すみません、浩さん仁志さん、妹さんたちにお話聞いたところ、犯人は窓ガラスをたたき割って侵入、両親を殴って気絶させ、その後に妹さんたちが自室に逃げたところを捕まえて凌辱、気が済んだ後にそのまま出ていったそうなのですが、犯人の特徴が、身長が180㎝程度の金髪、ダウンコートを着込んだ大柄な男と、身長170センチ程度で茶髪、コートを着込んだ筋骨隆々な男の二人組なんですが、この特徴に当てはまる人間をご存じないですか?」


 警察の話を聞いて、兄弟はすぐに夜中にすれ違った二人組を思い出した。


「知ってます! 夜中に、帰り道で家の方向から歩いて来ていた二人組の男がそんな恰好をしていました」


「おお! 詳しくお話を聞かせてもらっていいですか?」


 それからまた警察に、自分たちの行動も併せて、詳しく話していくのだった。



 警察との話が一度終わり、犯人のことも警察に任せて兄弟はそのあと、葬儀屋へと向かった。

 喪主になる、という事は分かったものの、何をするのかはっきりと分かっていなかったので、葬儀屋に相談しようと思って、連絡をしてから訪れた。


 それから、葬儀屋で色々と話を聞き、しなければいけないこと、決めることなどをあらかた聞いて、ひとまず今日できることは全て終わらせた時にはもう日が暮れ始めていた。

 兄弟は葬儀屋から外に出て、車に乗り、ひとまず美佐子と話をしようと美佐子の家に向かい始めていた。


「兄貴、俺腹減ったから、どこか寄っていかない? 流石に、朝から何も食って無くて、そろそろ限界なんだけど」


「ああ、そっか……確かに俺も腹減ってるな。そうだな、ってラーメンでいいか? ちょうどすぐそこにあったし」


 という事で、兄弟は帰る前にラーメン屋へと向かった。


「よし、到着……仁志、降りるぞ」


「……ねえ、兄貴」


 ラーメン屋に到着して、車から降りようとしたのに、何かを見つめて一向に動こうとしない仁志に、浩は声を掛けた。

 すると、仁志は震える声で、身体を振るわせながら、指を見ている方向へと向けた。


「あいつらって……」


「? ……!? あいつらは、昨日すれ違ったやつらじゃねえか! 何でこんなところに!?」


 その指の示す先には、夜中に兄弟が道を聞かれてすれ違った二人組がそこにいた。

 改めてその姿を見ると、妹たちが警察に話したという特徴と同じで、兄弟の頭の中ではもう、そいつらが犯人に確定していた。


「……飯を食べ終わって帰るところみたいだな。近いのか、徒歩で帰るみたいだけど……」


「……これで家が判明すれば、警察に伝えて一気に捕まえてくれるかもしれない。……尾行しよう」


 兄弟の心は一致して、飯も食わずにその男たちの後をバレないように気をつけながら追いかけていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る