第3話

(確証は無い、けど、あの時の二人組が歩いてきた方向、それにあいつらから漂ってた匂い、それに血の匂いも思い返してみたら、確かにしていた。気のせいかもしれないけど、一度探す価値はあるかもしれない……)


 浩は美佐子宅への道のりを仁志を連れて歩きながらも頭の中では、ずっとあの時出会った二人組のことばかり考えていた。

 だが、その前に浩にはやらなければいけないことが多かった。

 ひとまずは美佐子の家に向かいながら、自分よりは詳しいだろう美佐子に聞かなければいけない葬式に関して、各種手続き、親戚への連絡など、たくさん考えることがあって頭を抱えたくなっていた。


 とはいえ、気付いてはいないが、そのことに救われている部分もあった。

 もうすぐ社会人になるとはいえ、まだ大人になり切れていないような年なのだ、考えなければいけないことが無かったら、おそらく今すぐにでも死んでしまった両親、傷を負ってしまっている妹たちのことで動けなくなっていただろう。

 まだしなければいけないことがあり、すぐそばに呆然とした仁志もいることで、しっかりしなければ、と考えてなんとか動いていられるような状態だった。


 そして気が付いた時には美佐子の家の前まで来ていた。

 美佐子の家は郊外に建っているマンションの部屋で、かなりの広さをしているのだが、マンションの所有者と知り合いだったらしく、かなり格安で住まわせてもらっているらしい。

 とはいえ、その分働かされることもあるらしいので、安くしてもらった分を働いて返しているようだが。

 ひとまず、マンションの話は置いておいて、浩は仁志を連れてそのまま美佐子の住んでいる部屋まで向かって入っていった。


 預かっていた鍵で美佐子の家のドアのロックを開き、静かに入っていった。

 そのまま靴を脱いで上がろうとしたところで美佐子にも兄弟が来たことに気が付いていたようで、リビングの扉から美佐子が出て来た。


「浩くん、仁志くん良かった、迷わずに着いたようで。ひとまず、夏那ちゃんと愛奈ちゃんはお風呂に入れさせて、今は客室で布団敷いて寝かせたけれど、二人もとりあえずはお風呂に入っちゃいなさい」


「ありがとうございます美佐子さん。仁志、先に行ってきな」


 美佐子に風呂を勧められて、とりあえず先に仁志を風呂に送ると、浩は一度兄弟の全員と離れたことで気が抜けてしまったのか、力が入らなくなってしまい、壁にもたれかかった。


「ちょっと!? 浩くん大丈夫!?」


「あ、すみません……ちょっと力が抜けちゃっただけなんで、問題は無いです」


「そう……なら良かったけれど、寒いでしょう? ひとまずリビングにいらっしゃい? 暖房も入れてあるし、しなきゃいけない話もあるから、こっちで話しましょう」


 美佐子にそう言われ、浩は身体に何とか活を入れて立ち上がり、リビングの方へと歩いて行った。

 リビングに入り、机を挟んで美佐子と向かい合って座って初めて、美佐子の目元が赤くなっているのに気が付いた。


(美佐子さんも泣いたんだろうな。おばさんからしたら姉が死んでしまったのだし……)


 それまでは暗かったこともあって美佐子の様子を見ることは出来ていなかったが、改めて美佐子の顔を見ることになって、その憔悴した様子を見て、浩もそこで涙腺が緩んで、涙が出てきそうになってしまった。


 それまではまだ何とかしっかりしなければ、という意識が働いていたので涙を流している場合ではないと堪えられていたが、一度、落ち着いてしまったら頭の中の両親の姿が離れなくなってしまい、せめて声は堪えながら、俯いて涙を流し始めた。

 美佐子もその様子に気が付いたようで自分も涙を流しながら、浩の頭を撫でてくれた。


 それから、二人でしばらく涙を流して、ようやく落ち着いたころ、風呂に入っていた仁志が出て来た。


「美佐子さん、お風呂ありがとうございます」


「いえいえ、さっぱりしたかしら? それじゃあ浩くんもお風呂行ってらっしゃい。バスタオルとかはまだ置いてあると思うから、それを使ってね。私も流石にそろそろ疲れたし、今日はもう寝るわ。二人は寝る時は同じ部屋で悪いけれど、あっちの部屋使ってくれていいから、それじゃあおやすみなさい」


 兄弟に風呂と寝室を準備して美佐子も自分の寝室へといった。

 浩も風呂に入りに行って、しばらくゆっくりしてから風呂から出ると仁志がまだ起きていたようで、椅子に座っていた。

 兄弟は、互いに互いの方を向くと、少しの間口も開かずに見つめ合っていた。


 先に沈黙を破ったのは仁志だった。


「兄貴、今日の帰り道にあったあの二人組覚えてる?」


「当然、覚えてるに決まってるだろ。……ここでそれを出すってことはお前も気付いたのか?」


「すれ違った時は気のせいかと思ってたけど、あいつらから夏那姉たちの匂いがしてたんだ。普段から二人に玩具にされてるから、匂いはしっかり覚えてたけど、男から甘い匂いがしておかしいと思ったんだよ。でも、兄貴は何も感じてなかったら気のせいって思おうとしてたんだけど、その様子だと兄貴もあの二人組怪しいと思ったんだね?」


「俺も、妹たちの部屋に入った時に気が付いたけど、けどあいつらがどこの奴らか知らないから、どうしようもないだろ……」


「警察に話したら探してくれるんじゃないかな……?」


「……そうだな、忘れていたけど、明日警察に行くときに話しておくか」


「うん……」


「とりあえず、今日はもう寝るぞ。……眠れるかは分からないけれど」


 そう言って、兄弟は寝室へと向かい、布団に入って目を瞑った。

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