第2話
浩が一階で両親が死んでいるのを見て吐き出していた時、二階に上がった仁志はまっすぐ自分の部屋には向かわず、夏那姉の部屋へと向かっていた。
正直なところ、浩は急いで自分を締め出して二階へと向かわせてくれたが、リビングの状況と、自分が感じた違和感を組み合わせたらある程度の答えは分かってしまった。
おそらく、両親は何者かに襲われたのだろう、もしかしたらそれだけでは済まずに、死んでしまっているのかもしれない。
浩はきっとその状況を見てしまったのだろう、自分を廊下に押し出してきたとき、かすかに声が、身体が震えていたのを感じ取ってしまった。
それでも、今、自分まで混乱させるわけにはいかないと二階に送ったのだろう、と考えていた。
それから夏那姉の部屋に向かったのは、一人だと嫌なことしか考えられなくなりそうだったからだ。
夏那姉と愛奈は何も無く、せめて無事でいて欲しい、という希望に縋りたかっただけなのかもしれない。
それでも、あの状態のリビングを見せられて、あまり希望に縋ってばかりではいられないかもしれないとは考えていた。
「夏那姉、愛奈、起きてる……?」
不安から声が震えるのを感じながらも、仁志は夏那の部屋にたどり着くと、返事のない部屋のドアをゆっくりと開いた。
「夏那姉! 愛奈! 良かった、無事か!?」
部屋の中にいた二人の姿を見て、すぐに仁志が駆け寄ろうとして、仁志はようやくおかしな状況に気が付いた。
よく見ると二人とも服をはだけさせて、涙を流しながら呆然としていたのだ。
そして、二人もこちらに顔を向けて仁志の顔を認識したかと思うと、二人は身体を寄せ合って、震え始め、
「来ないで! いや、いやああぁぁぁぁ!」
「わっ、どうした!? 何もしないよ、大丈夫だから!」
叫び出だしてしまった。
急に叫び出した二人に慌てて、近付こうとしたが、更に叫び出してしまって、仁志は途方に暮れてしまった。
「どうした!? 何があった!?」
二階の叫び声が聞こえたのか、階下から浩が上がってくる声と音が聞こえた。
急いできたのか、本当にすぐ部屋まで来た浩を見て、夏那と愛奈がさらに動揺し始めてしまい、収拾がつかなくなってしまったので、一度浩と仁志は部屋から出ることにした。
「……何があったのか分からないけど、ひとまず警察に電話しよう」
浩はそう言うと下に降りていった。
仁志も浩について下に降りていこうとすると、浩はこちらを見て、話しかけてきた。
「どっちにしろすぐ見ることになると思うから先に教えるけど、下で親父とお袋が……死んでた。もし大丈夫そうなら、最後かもしれないから顔を見に行くか……?」
先ほどまでは気が付かなかったが、今の浩の表情はかなり青く、憔悴していた。
その顔と、話を聞いて、足が震えるのを感じたが、仁志はそのまま一緒に下に降りていき、ようやくリビングの惨状を目の当たりにした。
震える足を何とか動かして両親のもとに近寄り、傍に跪いて呆然としてしまった。
涙が流れるのを感じながら、もしかしたらそうかも知れない、という嫌な想像が現実のものとなっていることを認識して、冷たくなってしまった両親を眺めることしか出来なくなってしまった。
そんな仁志を見ながら、自分も身体が震えているのをなんとか抑えて、固定電話の受話器を手に持った。
そして、警察へと連絡して、夜も遅い時間ではあったが近くの交番からすぐに警察の人が来てくれた。
「君が電話してくれた、結城浩さんかな? 今の状況を、分かる範囲で教えてくれるかな?」
「分かりました。それと何ですが、上で妹たちもいるんですが、、錯乱しているようなので、出来れば女の人で対応してもらえませんか? 家族の俺達でも、姿を見てすぐに叫び出しちゃってたんで、たぶん男に乱暴されたのかも知れないって思って……」
「うん、分かったよ。それにしても君は落ち着いてるね?」
「一度、そこでちょっと……見た後に吐いちゃったので……それと、混乱してるからか、かえって冷静になっちゃってるみたいです……」
それからは、自分たちがなにをしていたのかなどを、軽くではあったが話をした。
「ひとまず、また朝になったら詳しく話を聞かせてもらうと思うけど、その前に、近場に親戚の人とかいるかな? 出来れば、今からそっちに行かせてもらって、今日はそこで休めるなら休むようにした方がいいよ。まだ混乱しているだろうし、窓ガラスも割られているから、防犯的にも、ね」
「分かりました、近くに一応叔母が住んでいるので、とりあえず連絡してみます……」
それから、浩は起きているのかは分からなかったが、叔母に電話をかけて、運よくまだ起きていたことに感謝しながら事の顛末を話した。
ちょうど寝る準備をしていたところだったらしくまだ起きていて、話をするとすぐに車で駆けつけてきてくれた。
かなり急いできてくれたようで二十分と経たないうちに来てくれた、
「すみません、美佐子さん。夜遅くに、しかも新年から……」
「うんん、私は大丈夫よ、それに大変になるのはこれからでしょうし……車で来たから、とりあえず乗っちゃって。寒いでしょ? 話は私の家で聞くから……」
「その事なんですけど……妹たちだけ乗せて行ってくれませんか? 俺たちは男だからか、さっきから怯えられちゃってるので……」
「そう……取り合えず、浩くんは私の家分かるわよね? 合鍵渡しておくから、これで入ってきて。夏那ちゃんたちを連れて先に行くけれど、一応鍵は閉めておきたいし……」
「分かりました、ありがとうございます……」
そして夏那と愛奈は、美佐子さんと女性の警官に助けられながら美佐子さんの車に乗って、先に出発していった。
警察はひとまずまだ何かすることもあるようなので、家に残っているようだが、今は休んでいいと言われていたので、浩も仁志を連れて美佐子さんの家に向かうことにした。
そして仁志を連れて行こうとしたところで、まだ仁志が両親の前で呆然としていたことに気が付いた。
少し、自分もこみあげてくるものを感じはしたが、それでもしっかりと地面を踏みしめて震える身体を何とか抑えながら仁志の傍へと歩いて行った。
「仁志、行くぞ、立て」
仁志はまだ呆然とした様子だったが、浩の言葉に反応してゆらり、と立ち上がった。
そのままふらふらとどこかへと行ってしまいそうな仁志の腕を取って、話をしていた警官に頭を下げて、家から出ようとした。
その前に、貴重品だけ持っていかなければと思い、二階の自分の部屋へと向かった。
そして、財布とスマホを持ち、妹たちのものもそれだけ持っていこうと妹たちの部屋に入った。
久しぶりの妹たちの部屋は甘い匂いがして、成長していたのだろうな、と上手く働かない頭でそんなことを考えた。
そして、部屋から出ようとした時、浩は何か引っかかった気がして立ち止まってしまった。
(この匂い、どこかで嗅がなかったか……? この部屋じゃなくて、別の場所で、ほんとに少し前……に……!?)
その時、浩は思い出した、思い出してしまった。
帰り道、道に迷っていた二人組から漂ってきた匂いを、その匂いがこの家で嗅いだ匂いだったことを。
妹たちの部屋の甘い香り、鉄のような、血の匂いを。
(あいつら……もしかして、あいつらがこれをやったのか……!?)
そう思い始めてしまい、浩は足が止まり、頭にぐんっと血が上るのを感じた。
しかし、すぐに仁志が掴んでいた腕を引っ張られて少し冷静になった。
それで浩は一度落ち着き、仁志とともに一緒に美佐子の家へと向かうのだった。
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