復讐の兄弟

かんた

第1話

「兄貴、そろそろ帰ろうぜ? もう帰らないと母さんに怒られそうだよ……」


「んー、そうだな。忘れ物は無いか?」


「ある訳ないじゃん。スマホと財布しか持ってきてないんだから」


「よし、じゃあ、帰るか」


 急な話だが俺、結城浩ゆうきひろは今、弟の仁志ゆうきひとしと除夜の鐘を突きに来ていた。

 もう大学も残すは出来上がった卒論を提出するだけで、就職も決まっているので、もしかしたらこれからは年末年始にあまり家族に会いに来れないかもしれないと思い、弟といつもは行かないような、少し家からは離れている寺へと来ていた。


 帰り道、他愛もないことを二人で話しながら、寒い夜道を歩いていた。

 道中でコンビニに入り、温まろうと肉まんを二つ買い、弟と一つずつ頬張りながら歩いた。


「兄貴ももうすぐ社会人かぁ。お年玉期待してるからな?」


 ニヤニヤとこちらにそう話しかけて来る弟をあしらいながら、ふと腕時計を見ると、もう年の変わるまで一分と無いような時間になっていて、兄弟二人で腕時計を覗きながら、秒針が12を指したと同時に、


「「明けましておめでとう、今年もよろしく」」


 互いに新年の挨拶を交わした。


「帰ったらどうせ言うけど、家族のグループチャットでも挨拶しておくか」


 とりあえずの挨拶をしようと、寒いことを理由に一緒には来てくれなかった、両親と妹の夏那かな愛奈まなの参加している、家族で作ったチャットルームで明けましておめでとうございます、と送っておいた。


 それから、兄弟二人とも、それぞれの友人から来ていたチャットに返信したりして、スマホを閉じようとして、家族のチャットを開いてしまった。

 しかし、意外にも既読はついておらず、とはいえ、両親も夏那も酒に強くないのにかなり飲んでいたし、愛奈も友達とチャットか電話でもしているのだろう、と深く考えずに今度こそスマホの電源を落とした。


 それから少し、家へと向かって歩いていると、前の方から二人組の男が歩いてきていた。


「あの、すみません。ちょっと道迷っちゃったんですけど、駅に向かうにはどっちに行ったらいいですかね?」


 見覚えないな、と思った通り、この辺りの人間では無かったのか、道に迷っていたようで、二人組は俺に話しかけてきた。


「ええと、駅に向かうなら、今向かってる方向にまっすぐ進めばつきますよ。観光ですか?」


「おお、本当ですか、ありがたい! いや、実は女の子の家に遊びに来てたんですよ。もう帰るところなんですがね」


「そうなんですか。最近は物騒な世の中ですし、気を付けて下さいね」


「いやぁ、本当にありがとうございます。そちらも気を付けて」


 少し話して、俺たちは二人組とすれ違って行った。


(……ん?)


 その時、かすかに何かを感じたが、その時の俺たちはそれが何だったのか分からなかった。


「てか兄貴、良くあんな怖い人と話出来るね? 俺なんか怖くて早く帰りたかったんだけど」


 二人組の男と話して、いたのを後ろで静かに見ていた仁志にそう言われた。

 確かに、金髪と茶髪で、アクセサリーをジャラジャラとつけたガタイの良い二人組は見た目は確かに怖い人種の部類に入るのだろうが、大学でも似たような恰好をしている人はいるし、だからと言って性格まで怖いわけではないのだから、怖がるだけ損だという事を浩は知っていた。


「そうは言っても、格好が怖くてもいい人なんていくらでもいるだろ? 逆にめちゃくちゃ普通の人でも中身は怖いかもしれないし、話してみないと中身なんて分からないんだから、怖がるだけ損だって」


「それはそうかも知れないけどさ……まあいいや、早く帰ろうぜ」


「おっと、そうだな。早く帰って今日はもう寝るとするか」


 年越しで今はテンション高くなっているとはいえ、明日は朝から親戚のところにも挨拶周りに行ったりするのだから、あまり遅くまで起きているわけにはいかないと少し帰る足取りを早足にして、兄弟は家へと急いだ。



「あれ、まだ電気ついてるな。急いだって言ってももうすぐ一時になるって時間なのに」


「まあ、年越しなんだし、仕方ないでしょ。早く家に入ろうよ、外は寒いって」


 家の前についた時には、寄り道してきたりしていたのもあって、一時になろうとしていた。

 それなのにまだ皆起きているのか家の電気がついているのを見て、少し不思議に思いながらも、浩は扉を開けた。


「「ただいまー」」


 しかし、家の中から返答は無く、不思議に思いながらリビングへと向かった。


「まったく、廊下も階段も電気点けたままじゃないか。いつもちゃんと消せって言われてるのに……」


 家中の電気がついていることをぼやきながら歩いていると、不意に何かを感じた。

 仁志も感じたようで、しかも兄より感覚が鋭かったのか、先に違和感の正体に気が付いていたようだった。


「なあ兄貴、何か静かじゃないか? それになんか……臭い気がするんだけど……」


「……確かに、言われてみればおかしいな……とりあえず、リビングに行くぞ」


 仁志に言われて気にしてみると、浩も違和感に気が付いた。

 廊下とは言え、暖房を入れていたはずの家の中とは思えない寒さ、やけに静かな家、そして嗅いだことのあるような、嫌な気持ちになる匂い、それら全てを兄弟ともに感じたことで嫌な予感を感じながらも二人はまずリビングに向かった。


 そして、リビングに通じる扉を開いて真っ先に目に入ったのは、窓ガラスが割られて、散乱している床に、真っ赤な液体が至る所に散らばっている様だった。


「何だよこれ……!? 親父、お袋!?」


 そして、少し視線を動かしてすぐに浩は自分の両親たちが床に伏せているのを見つけてしまった。


「仁志はこっちを見るな! 二階に行ってろ!」


「兄貴!? ちょっと!?」


 まだ両親の状態に気づいていなかった仁志を廊下に押し出して、そのまま扉を閉めるとそのまま二階へと向かわせた。

 すぐにバレてしまうのだろうが、少しでも気付くのに時間を掛けさせたいと思ったからだった。

 そして、仁志の足音が二階へと向かったのを聞きながら、浩は両親の元へと近づいていった。


「親父……? お袋……? こんなところで何してるんだよ……?」


 自分の声が震えているのを感じながら、伏せている二人の身体をゆすろうと方に手を掛けた。


「っ!? 冷たい……」


 正直、どうなっているのかは頭のどこかで分かっていたのかもしれない。

 だから、既に冷たくなっている二人に触れた時も何か改めて思うことは無かった。

 しかし、それでもこみあげてくるものを感じて、すぐそこにぶちまけることは何とか堪えられたが、ほんの数歩移動したところで胃の中にあったものを全て吐き出してしまった。

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