第32話 親善試合は国威発揚の場 2
「ああも堂々と招待を受けたにもかかわらず親善試合の参加を断るとなれば、他国から「腰抜け」の謗りは免れぬであろう」
親善試合を受託した最大の理由だと、パーセルが家宰と筆頭騎士の5人に言って聞かせる。
戦を行う上での最上の策は「戦わずに勝つ」ことである。これも一種の戦争と考えるならば、戦いをする前に相手が逃げた事実があるのだから、クの国からすればナの国が決めた親善試合辞退を吹聴することに躊躇う理由がない。
「使者のメンツをつぶしたのですから、報復も兼ねて徹底的にわが国を貶める恐れもございましょうな」
ゲープハルトが指摘する危惧にパーセルも「向こうにしてみたら我が国に勝ったとも言えるのだ、十二分にあり得るだろう」と同意する。
「それゆえにお館様は親善試合を受けたのでございましょう」
パーセルの心情を慮ったガイアールが代弁すると、鼻息荒くオルティガルムが「それでこそ、我らがお館様!」と野太い声で称賛する。
「我らのドロールが縦横無尽に駆って活躍すれば、クの国の機動甲冑など恐れるに足りぬ。全勝で屠って見せてくれるわ」
戦闘ジャンキーらしく脳筋一直線に根拠のない大口を叩くが、隣にいるガイアールから「向こうもそこまで弱くはなかろう」と軽く窘められる。
「仮にも模擬戦を挑んでくるのだ、それ相応の自信はあるに違いない」
申し込みの経緯を鑑み、極めて常識的な予想を立てる。
ゲープハルトも同様の意見なのか「相手の熟練度がどの程度か分かりませぬが、五分で渡り合えると考えたほうが宜しかろう」と慎重論を口にする。
しかしマニッシュとオルティガルムは、己の駆る機動甲冑に絶対の自信があるのか「宰相殿と頭のガイアールは揃いも揃って弱気よの」と2人を小バカにするように鼻で嗤う。
「少々研鑽を積んだからとてどれ程のものよ。かつて向こうの騎士と手合わせしたのを憶えておろう? 3戦して2度勝っておるのだ。油断さえしなければ、我らの勝利は間違いなしだ!」
以前の成功体験を根拠に実力差は自分たちのほうが上だと主張する。
「それは生身で剣を交えたときの話。此度は機動甲冑での戦いだから、全くの別物ではないのか?」
戦い方が異なるのだから過去の経験は関係ないとゲープハルトが指摘するが、オルティガルムは「剣が槍に代わっても強さが変わらぬように、機動甲冑であろうと我らの強さに疑う余地はない!」と強気な発言。
「うむ。貴公らの健闘でわが国のメンツは保たれておる。此度の親善試合でも如何なく発揮してくれることを祈っておる」
パーセルは満足げに頷くと「試合の日取りと場所を申す」と親善試合の詳細を披露した。
次の日の夜。
「うん、この城で何があったのかは分かった。わざわざ説明してくれたことにも感謝する」
またもレーアの居室というこで、例のごとくウィントレスではなく侍女であるクリスの身体に憑依させられた翔太は、先日城内であったという〝出来事〟を聞かされていた。
そうそう部屋内に機動甲冑を持ち込めないこともあって、ここ最近はクリスの身体に移されることも多く、当初のように驚くことはなくなったがやはり女体は慣れないモノ。特にクリスはスタイルが良いので目のやり場に困る。
また侍女服で丈が長いとはいえ、スカートの持つスースー感と頼りなさも地味にダメージが大きい。
そして何よりも、この身体の持ち主であるクリスがすぐ傍というか二心同体で『どうなの? ねえ、どうなの?』と、ことあるごとにからかってくるのだから始末に負えない。
それはさておき、今回呼び出されたのは。
「オレの流派はマイナー過ぎるから経験ないけど、他の流派なら公式戦以外でも、外部の道場や団体との交流試合は割とあるな。圧倒的な強者の胸を借りる場合もあるけど、だいたいは本チャン前に自分たちの実力か相手の力量を推し量るためにやるな」
他国相手に起動甲冑同士での親善試合が申し込まれたとのことで、他者との交流試合の目的にどんなものがあるのかを説明したのだった。
「ふ~ん、なるほどねー」
それほど難しい内容でもないので、レーアも説明1回で直ぐに納得したようだが、イマイチ翔太の腑に落ちないところが……
「話を聞いた感じだと、これが初めてじゃなさそうだけど。わざわざ説明が要るの?」
機動甲冑は新兵器なので初のケースのようだが、生身での模擬戦はこれまで幾度もなく実施していたはず。
王女であるレーアの身分なら1度や2度は観覧していたと思うのだが、彼女の反応は今回の親善試合がまるで初見かのよう。
「べつに訊いたって良いじゃない」
そっぽを向いて拗ねるレーアに「訊くのが悪いとは言ってないけど、どうしてかな? と思って」と、素朴に疑問に思ったからだと答える。
すると頭の中から『それはですね』と心なしか呆れの混じった声が聞こえる。
『翔太さまにわざわざ試合のことを尋ねたのは、王女でありながら姫さまはウィントレスを駆るようになるまで、この手の行事にまるで関心がなかったからです』
あっさりと内情を暴露したクリスに「余計なことは言わないで!」とレーアが逆ギレ。
「いいじゃない。ウィントレスを駆ってからは、ちゃんと興味を持つようになったのだし」
唇を尖らせてレーアが弁明する。
仕草が可愛いとは思うが、あざとさが見え隠れするのは減点対象。
「急に興味を持っただなんて、多分に3日坊主のにわかだろうね」
もっと自然に振舞えば違った印象だったかもしれないが、あくまでも他人事だけに翔太の下す評価は手厳しい。
しかし翔太も言葉を選ぶべきだった。
「酷い!」
辛辣な評価にショックを受けたポーズをとり、レーアが首を垂らして「ヨ、ヨ、ヨ」と泣き崩れる。
『あ~あ。姫を泣かせた』
すかさず援護射撃でクリスが翔太の態度を非難する。
まるで予定調和のコントのような展開に「良いからもう、本題を言ってくれ!」と翔太が叫ぶ。
半ばやけくそな回答に満足したのか、レーアが「分かったわ」と言って、ニンマリと意地の悪い笑顔を作り出す。
「5日後のクの国との親善試合。ワタシと一緒にウィントレスで参加してもらうわよ」
レーア。本気での参戦宣言であった。
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