第12話 実証見分をしてみる 3
「とにかく先ずは、ウィントレスに内包されている魔晶石に意識を込めなさい」
機動甲冑を起動させる第1ステップとして、レーアが翔太に魔晶石内でビタリーを循環させろと命じる。
しかし命令はいかにも抽象的で、肝心なところが全くもって意味不明。
何せ先ほどのデモンストレーションは、インパクトこそあれ内容は極めて雑。結果どうなるかは非常に良く分かったが、そこに至るまでの肝心な方法論が一切分からない。
『意識を込めろは分かったけど、実際のところ何をどうやって念じればいいんだ?』
当然、更なる質問を求めることになるのだが、詳細な手順を求めて訊いたのにレーアの回答は実に大雑把。
「お題目なんか何でも良いのよ、それこそ「光れ」でも「舞われ」でも。とにかく魔晶石にビタリーを集めて、中で循環させるイメージが大事なんだから」
『詠唱のセリフを訊いたのじゃ無いのだけど……』
翔太が知りたいのは意味不明な呪文の類などではなく、魔晶石に意識を込める具体的な方法なのだが、肝心なことは何ひとつ分からずじまい。
意味が伝わっていないのかと訊き直しても結果は同じ。
擬音で「バーン」や「グイっと」などと言われても、ヒントのない無理ゲーにしかならない。
どうやらレーアは、他人に物事を教えるのが徹底的に下手な人種のようだ。
『もういいよ。とにかく魔晶石に意識を込める、だったな?』
達観した翔太はレーアに教えを乞うのを諦めて、自分なりの方法でビタリーの循環を実践してみることにした。
『先ずは魔晶石を感じることか……』
ヒト型兵器で中に人が乗り込む構造なのだから、動力源となる魔晶石は腰か胸辺りに搭載されているのだろう。そう思い胸からお腹に意識を向けると、同時にさっき見た光景を思い出す。
『輝きながら回っていたから、空気中の稀元素と何らかの化学反応を示したのかな? とにかく、そんなイメージで』
詳しい原理はサッパリ不明だが、エネルギーが循環して回転するイメージはレーアのデモンストレーションでバッチリ掴めている。
想像上の掌をおそらく魔晶石がある場所にかざして、空気中の微粒子を魔晶石に集まる光景を思い浮かべる。
『そして濃度が高まれば化学反応を起こして魔晶石が高速回転しながらエネルギーが放出される……』
頭の中でビジュアルを想像すると、何やら胸のあたりが熱っぽく感じてきた。
今の今まで視覚と聴覚以外はまったくといっていいほど機能していなかったのに、魔晶石を体内で循環させた途端、膏薬が染み入るように体に感覚が戻ってきたような気がする。
そしてそれは外見からも容易に分かるのだろう。
レーアとクリスが口をそろえて「おおっ」と驚きの声をあげる。
「姫さま、これはどういうことでようか? ウィントレスの全身が鈍く輝いていますけど」
口あんぐりなクリスだけでなく、ビタリーの循環を指示したレーアも「ワタシも初めて見るわ」と興奮を隠さない。
「これだけ輝いているということは、魔晶石の中をスゴイ勢いでビタリーが巡っているのだと思うわ。話しには聞いたことあるけど、直で見るのはこれが初めて……というか、アレは理論上の話というのが通説で、実際の現象は誰もまだ見たことが無いはずよ」
目を大きく見開いたまま、早口で一気に捲くし立てる。
「つまり。この摩訶不思議な光景は、私たちが初めて目にするのですね?」
「そういうことになるわね」
感嘆するクリスにレーアが胸を張り、初めて見る光景に目を輝かす。
一方、興奮する2人に圧倒された翔太は気遅れ気味。
ボディーが発光しているのは高効率変換の証だというが、果たして本当のことなのだろうか?
『なんだかんだアレだけど、要は魔晶石内でビタリーの循環が上手くいっているんだな?』
単刀直入に訊いてみると、レーアが首を縦に頷き「そうよ」と肯定する返事。
「それも信じられないくらいスゴイ勢いでね」
よほどバカげた量で呆れているのか、肩を竦めるオマケ付き。
だが侍女のクリスは、レーアが口にした〝バカげた量〟の文言にしっかり飛び付いた。
「素晴らしいですわ。かつてないほどのビタリーの変換効率が高い超高性能機。さすがは姫さまの機動甲冑」
主の所有する愛機が高スペックなんだと、クリスが誇らしげに胸を張るが、当のレーアは「いいえ、違うわ」と首を横に振って否定する。
「ウィントレスの性能は確かに高いけれど、魔晶石内のビタリー循環は甲冑本体とは関係なく装着者の能力如何にかかっている。いささか不本意で何気に剛腹だけど、これは翔太の適正値が高いことに他ならないわ」
機体の性能のさることながら翔太の潜在能力が凄いのだと改めてクリスに説明する。そのうえで「装着者の人格や教養などは一切関係ないけどね」と、あからさまに不必要な情報まで付け加えるあたりはひと言余計。
『あのさ。フォローというよりも、何気にオレのことを貶めてないか?』
いささか懐疑的になって尋ねると、レーアは首を左右に振って「とんでもない」と否定する。
「貶めるなんて心外な、それこそ最大級の賛辞よ。……ワタシができないことをいとも簡単にやってのけるのが、とてもとても気に入らないけど!」
『オマエ。不機嫌を隠す気がゼンゼンないだろう?』
ダダ洩れな本音に呆れる翔太へ「うっさいわね!」と罵声が飛ぶ。
言葉の端々というより、隅々にまで露骨な怨嗟がこもっている。
「ちょっと他人よりビタリーを多く集められるからって、いい気にならないで。未だ起動の第一段階をクリアしただけなんだから!」
「それはさすがに……言い過ぎかと……」
聞きようによっては完全なる負け惜しみ。主の器の小ささを露呈するようなもので、やんわりとクリスが窘める。
実際その通りのセリフなのだろうが、翔太にとっては先の小物的な暴言よりも、後ろに続いた「起動の第一段階」のほうが気にかかる。
『もそれはいいから、第一段階が終わったのなら、次はどうするんだ?』
くだらないマウント取りに拘るよりも次工程の説明を先にしろと促すと、ヒートアップしていたレーアも我に返ったのか「大事なのはそっちよね」とわざとらしく咳払いをした。
「魔晶石内でビタリーが循環すると、機動甲冑の隅々にまでビタリーの力が伝わるようになる」
「それで、その先どうなるのでしょうか?」
侍女の立場だと滅多にお目にかからない機動甲冑を目の当たりにして興味津々なのだろう。
翔太が訊くよりも早く、クリスがレーアの解説に食らいついた。
「こんな重たい鉄の塊を自在に動かすのですから、ビタリーの力で魔法の類か何かが発動するのですよね」
そう思うのも無理はない。機動甲冑の全高は2メートル半と、成人男性のおよそ1.5倍もの高さがあるのだ。当然重量もそれなりで、武具を持たなくても躯体の重量は200㎏を超え、太刀や槍などを携行すれば300㎏に迫る。
こんな重たいフルプレートアーマーを自在に動かそうなど、アシストなしでは例え筋骨隆々で屈強な男であっても困難極まりないだろう。中世ヨーロッパ程度のテクノロジーレベルでは、クリスのように魔法の単語が出てくるのも無理からぬ。
しかしレーアは「一見すれば魔法に思えるけど、違うわよ」と、クリスの予想をきっぱり否定。
「これは魔法じゃない。詳しくはワタシも知らないけど、ビタリーの力を介在にして、ワタシたちの動きを機動甲冑に伝えてくれるの」
レーアの説明を聞いて『まんまパワードスーツだよな』と翔太が呟く。
ビタリーなる謎物質の正体は相変わらず不明だが、電気などのエネルギー体であることは間違いなさそうで、魔晶石をバッテリーだと考えればすべてが合理的に説明できる。
『理屈は何となく分かったから、第二段階に移行する具体的な方法を教えてくれ』
おそらくはここからが本番なのであろう。
翔太は次を促した。
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