第16話 錬金ブルーヌ
これなら勝てるかもしれない。
「くらぇぇ!」
「あまり調子に乗るな…」
エリゼクトはそう呟くと一瞬にして俺の視界から消え、気づくと後ろにいた。
魔力を一時的にゼロにしているはずなのに…やはりこいつと俺の力の差は歴然…
俺はエリゼクトの蹴りで500メートル先まで飛ばされる。
「ぐはっ」
その間に魔力が戻ったエリゼクトは、再び攻撃の体制を作り両手にオーラを溜め、闇の波動を俺に向けて放った。
くそ…このままじゃ…
「精霊魔術…#精霊鏡__ヤタノカガミ__#」
エレナがそう呟くと、突如俺の前に巨大な鏡らしきものが現れた。そして、本当ならば俺に当たるはずの波動はその鏡により反射されエリゼクトの方へ飛んで行った。
「よくやった!エレナ」
「はい!ありがとうございます」
これならあいつもただではすまないだろ__
俺は声が詰まった。なぜなら反射して飛ばした波動が当たるかもしれないというのに、エリゼクトはそこから逃げようとせず不敵な笑みをしていたのだから。
あいつ何を笑ってやがる…。あの攻撃も生半可から当たって無傷でいられるわけが無いのに。
「風の精霊よ…」
「は!?」
そう。イグゼル達は大きな間違いにここまで気づいていなかったのである。
エリゼクトはこれまでの戦いで一度も魔王魔術以外の力を使っていなかったため、無意識にほかの魔術は使えないと思い込んでしまっていた。
「しまった…!」
「イグゼルさん!!」
まさか風の力を宿しているなんて…。しかし風魔術ではあの攻撃は相殺するのがやっと…。
「#風邪転生魔術__かぜてんせいまじゅつ__#!」
「なに!?」
「#対敵反射__リターン・オブ・カウンター__#」
エリゼクトがその魔術を唱えると一瞬にしてイグゼルとエリゼクトの位置が反対になった。
「イグゼルさん!逃げて!」
エレナはイグゼルに叫ぶが、波動はあまりにも近く、逃げるのは不可能であった。
ドカンッ!
「イグゼルさん!!」
*
___バスキュア王国・東地区___
一方、アベルとルーベットはエリゼクトの幹部であるビーナスとブルーヌとの交戦の際にアベル達の協力技で勝利したと思われた。
しかし……
「ゲホッゲホッ」
「派手にやりすぎたな…。だかアイツらはこの攻撃を直で当たりやがった。跡形もなく消え去っているだろうよ」
ルーベットはニヤリと笑いイグゼル達が戦う中央地区に行こうとした。
「なにを言っている…俺達はまだ死んでないぞ。」
そう言ったのは鋼の壁の中に潜むビーナスとブルーヌだった。
嘘だろ…!あの攻撃を当たり、さらに無傷でいるなんてありえねぇ…
ルーベットは動揺のあまり目が泳ぐ。
「あの鋼の壁…さっきまで存在してなかったぞ。」
「なんだと!?じゃああれをあの攻撃の前に作り出したっていうのかよ。」
アベル達が喋っているとブルーヌは壁から姿を表し、兜を取りニヤリと笑った。
「俺の二つ名は錬金ブルーヌ。世界でも稀なその場の物質を利用し、作成できる力を宿している。今回は炎にも負けない鋼を錬金した。」
錬金術を使えるやつなど、この世界では片方の指でも足りるくらいの人数しか居ないって言うのに…。これはかなりやばい状態だ…
「助かったわ…ブルーヌ」
「お前はそこで魔力を回復してろ。その間は俺がこいつらの相手をする。」
「なんだとてめぇ、俺様を舐めやがって!」
ルーベットはブルーヌに飛び込み蹴りつけようとするが、アベルがそれを止めた。
「何すんだ赤髪!」
「よせ…ルーベット。今の俺たちじゃ勝てない。」
そう。アベルは分かっていた。「前回の炎闇の大玉」で、二人の魔力はほぼ失っていた。
しかし、ブルーヌはほぼ魔力が満タンな状態で不利なことは目に見えていた。
「だったら、どうするんだよ!このまま殺られて死ぬのか!」
ルーベットはアベルに対し、怒りを露にした。
「分かった…お前は休んでろ。俺が倒れるまでそこで魔力を回復しろ」
「何言って…___」
そう言うとアベルは先程までの赤い炎を消し、ルーベットさえも禍々しく、警戒するほどの青い炎へと変えた。
「おまえ…何を…」
「安心しろ…俺達はここでは死なない。」
そう言うとアベルはブルーヌの方に近づきながら、禍々しいオーラを拳の中へ凝縮させていった。
「言っただろう…俺は錬金術を使える。お前程度の技、食らうはずが___」
ブルーヌがそう言おうとした瞬間、アベルは極限に凝縮したオーラを解放した。
「#青炎の裁き…__ゼロ・グラビティ__#」
それは、音もなく一瞬にして東地区地区は青の炎に飲まれた。
バスキュア王国・東地区、壊滅。
次回 「命の灯火」
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